【第1部】第6話 天才秀才バカコンビ

 今日もピュア島は快晴。
 そんな中、夕飯の材料をとりにでかけるささらちゃん。
 だいたいの材料を集め終わって、少しつかれてしまい、海辺の方へいって一休みするコトにした。

「ん~・・・・眠い~・・・」
 ささらは浜辺にどっかり腰を下ろす。
「ピュア島の東西南北毎晩飛び回ってるんだもん、疲れるのも当たり前か~・・・」
 4人の番人たちに会いに行く楽しみもふくめ、ささらは結局、毎晩夕飯を渡しに行っている。
 小さな離れ小島、ピュア島とはいえど、人が島全体を動き回るのには、そんなに小さくない。
 疲れのあまり、思わず浜辺にパタンと横になった。

「は~あ、もう寝ちゃおっかな~」
 もちろん、本人もこうは言ったものの、寝るツモリなんてなかった。
 いくらピュア島が安全でも、お年頃の娘さんがこんなトコロで昼ねなんてしてしまって、いいわけがない。

 けれども、ほどよく照りつける太陽、心地よい波の音は、昼寝にはもってこい。
 寝ちゃダメ、寝ちゃダメと思いつつ、その疲れと誘惑には勝てなくて。
 ・・・・・・・ささらちゃん、爆睡・・・・・・。

 その反対側の浜辺で。
「橘ー!はやくはやくー!!」
 こんな南国で着るには、暑そうなブラウスとベストを着た金髪の少年が、大きな海を見てはしゃいでいる。
 太陽の光に照らされるその見事なブロンドに、大きな青い瞳、そしてその無邪気な顔つきは、彼が世間知らずのお坊ちゃまだとわかるには十分だ。
 ついでに髪の毛が長いので、男としてみるにはちょいとムリがある気もする。

「ひのと様!お待ちください!コレをつけてから行動されないと・・・!!」
 橘と呼ばれた男は、頭から酸素マスクをかぶっていて、顔がわかんない。
 スーハーと息をもらしながら、ひのとにも同じものを渡そうとした。

「こんな得たいのしれない島で、悪い空気を吸われたら肺にどんな支障をきたすかもわかりません!」
 過度の心配性っぷりを発揮する男、橘に、ひのとは笑顔であっさり返した。

「やだなぁ、橘。日本より空気がキレイそうなのに、どうしてそんなモノかぶらなきゃいけないのさ」
「一見そうですケドね。この島が普通でないことは、おわかりでしょう」
「でも、お兄ちゃんはここで1年間も暮らしてるケド、無事だよ」
「お兄様はあなた様と違って、無駄に頑丈ですから」
「でも橘、こんなステキな島なのに、そんなものかぶってたら景色も見えないし、もったいないよ。それに、かぶったら暑苦しいでしょ?だから橘もとってとって」
 ひのとは少し強引に橘のかぶっている酸素マスクをはずそうとした。
 橘は仕方なく、酸素マスクを自らはずす。
「ひのと様がそこまでおっしゃられるのなら、仕方ありませんね」

 マスクを脱ぐと、橘の少し長めの真っ黒な髪と、少し日本人離れした堀の深い顔があらわになった。
 落ち着いた瞳に、右目には片メガネをつけている。
 ってゆーか、片メガネしたまま酸素マスクかぶってたんか。

「ひのと様がお兄様をご心配なされる気持ちはよくわかりますけど、だからといって、ひのと様自らこの島に出向く必要はないと思います。紫外線だって強そうだし、この日差し、日射病にでもなられたらどうしますか。ましてやこの島は普通じゃないことは、総帥からあれほど聞かされたじゃありませんか。そんなところへ行かれるとおっしゃられるものだから、やむをえなく私も同行させていただきましたが・・・」

「たーちーばーなッ!!そのコトはもうここ来る前までにさんざん討論したでしょ!とにかく、今はお兄ちゃんを迎えに行くのが先!ね?」
 ひのとがにっこり橘に微笑むと、橘はすっかりその笑顔のとりこ。

 そしてふぅとため息をつき、ひのとに従うことにした。
「わかりました。ですが、お兄様とのお話が済んだら、即日本へ帰りますからね」
「もちろん、お兄ちゃんも一緒にネ」
 ひのとは相変わらず笑顔で答えた。

 1年ぶりに実の兄に再会できるコトがうれしくて仕方ないのだ。
 そう、彼らが先ほどから語る「兄」とは・・・

「はっくしょいッ!!!」
 一方こちらはピュア家。
 洗濯物を干していた最中のみかどは、一発大きなくしゃみをした。
「兄ちゃんおげひーん」
「きぃー」
 その近くで遊んでいたピュアくんとぽちは、それから身をかばうようにわざとみかどから距離を置く。

「兄ちゃんのつばかかったそのシャツ、もっかい洗いなおさないと着ないからな」
「へいへい」
 いつものコトなので、みかどはうんざり顔ではあるが、ある程度なれた態度でピュアくんに返した。
(あーもー、なんだろな。別に寒くなんてないのに・・・)
 鼻をすすりながら、みかどは思った。

 そしてまた洗濯物を干す作業にかかっていると、近くの茂みから、人の話し声が近づいてきた。
 おそらく、ピュアくんの動物の友達が遊びに来たのだろう。
 みかどはたいして気にもかけず、話し声のするほうに背を向けて、黙々と仕事をこなしていた。

「こっちだよこっちー」
「みかどさんはピュアくんと一緒に住んでるんだよー」
 これは仲良しコンビ、キツネのしっぽのはえたウサギのとおるくんに、タヌキのようなアライグマのたかしくんの声だと、みかどは判断した。

 ピュアくんとぽちもとおるくんとたかしくんの声に気づき、声のする方を振り返り、そして彼らに挨拶した。
「やぁ、とおるくんにたかしくん!」
「やぁ!ピュアくんにぽち!!」
 ガキ同士で仲良くやってくれるのは、こっちとしてはひじょーにありがたい・・・。みかどは思った。

「わあ!カワイイまあるいおうちだネ!!」
「原始的なとこですねー」
 こちらも聞き覚えのある声だ。
 しかしみかどはすぐにその声の持ち主の名前が出てこない。
 この1年でほとんどの動物の顔と名前と声は覚えたのだが・・・。
 みかどはくるりと後ろを振り返った。

 ・・・・・・・・・・・・・間。

 みかどはその動物ではなく、人物の姿を目で見て、一瞬固まった。
 そして次の瞬間、すっかり動揺して彼らの名を呼んだ。

「ひっ・・ひのとに橘ッツ!!!」

とおるくんとたかしくんに案内されてやってきた、ひのとと橘。
 名前を呼ばれ、家の近くで洗濯物を干していたみかどの存在に気づく。

 ひのとはみかどを見ると、嬉しさのあまり、しばらく言葉も出なかった。
 目の前にいるのは、1年前、自分の知らぬ間に家出をしてしまった、たった一人の実の兄。
 1年ぶりにその兄の姿を見るコトができたのだから。

「お兄ちゃ~~~~~~~~~んッツ!!!」

 ひのとは感極まってみかどに突進し、そして彼に思いっきり抱きついた。
「わわッ!何だよ、くっつくなって!!!」
 みかどはぎゅう~~~と抱きついてくるひのとをひきはがそうとするが、ひのとの方は離そうとする気配もない。

「お兄ちゃーん!!1年ぶりだねー!!何かすっかりたくましくなっちゃって、髪も伸びたし、洗濯なんてやってるから、一瞬誰かわかんなかったよ~!!」
 半泣きでそういうひのとに、もはや何をいっても離れるつもりはなさそうだ。

 一方、ピュアくんは初めて見るこの少年に、悪い印象はなかった。
 しかし、みかどにはもう一人弟・・・、みことがいたハズだ。
 つまり、3人兄弟だったのだろうか
 ピュアくんはみかどにたずねた。

「兄ちゃん、兄ちゃんにはもう一人弟がいたよな。3人兄弟だったのか?」
 ピュアくんがさりげなく聞くと、みかどはぎょっとした顔でピュアくんを見つめた。
 ひのともソレを聞くと、みかどの腰にまわしていた手をゆるめ、ピュアくんの顔を見た。
 2人の妙な反応を、ピュアくんは見逃さない。

「お兄ちゃん、何のコト・・・?」
 ひのとは怪訝そうな顔つきでみかどにたずねた。
 みかどはふと、遠くからその様子を見守っていた橘を見た。
 橘はみかどと目があうと、首を横にふった。
 それを確認すると、みかどは苦し紛れの言い訳を言い始めた。

「あー・・・俺がこの島に来てから、こいつ、ピュアってーんだケド、こいつが俺の弟になったワケ。だからもう一人弟がいるって、そういう意味でいったんだよなー?ピュア!」
 ピュアくんに「YES」と言えといわんばかりの剣幕で、みかどはせまった。

 しかしピュアくんがそれに答える前に、ひのとがピュアくんのコトをひょいと抱き上げ、そしてきゅうっと抱きしめた。
「なぁんだ、そういう意味だったんだ!僕ひのとっていうんだ。お兄ちゃんの実の弟、よろしくネ。じゃあピュアくんと僕も兄弟ってコトになるのかなー♪」
 ひのとの方はまわりの妙な雰囲気もあまり把握できてないようで、言われたコトをうのみにしてしまっている始末。

 それに、ひのとは実の兄が自分の知らないところで、弟代わりの存在を作っていようが、嫉妬などはしないだろう。

 しかし、ピュアくんはどうだろうか。
 素直に感情は出さないけれど、みかどを頼りにしてきたピュアくんだ。
 今、突然みかどの実の弟、ひのとが現れ、ピュアくんはどう思っているのだろう。
 みかどは少し気になった。
 しかし相変わらず、ピュアくんの表情からは、何も読み取れなかった。

 それよりも、今はピュアくんに忠告しなくてはいけないコトがある!
 みかどはひのとにだっこされているピュアくんを奪い、急いで家の影につれていった。

「ピュア、頼む!みことのコトは、ひのとには言わないでくれ!」
 そしてパンっと手を合わせ、ピュアくんにお願いのポーズをとった。
「なんでだ?」
「あいつはみことの存在を知らないんだ。だから、実の父親に自分の弟が監禁されてるなんて知らない。・・・つまり、ひのとは親父をいいヤツだと思ってるんだよ」
「でもヴァーストって悪いやつだったよな?」
「そう。だから橘・・・、あの片メガネのオトコな。あいつもなるべくその事実をひのとに知られないようにって、色々やってくれてるみてーだケド・・・。とにかく、まだあいつガキだから、こんなコト知らされたらすっげーパニックすると思うんだ。だから頼む!黙っててくれ!」

「何を???」
 と、お話中の2人をおかしく思ったようで、ひのとは2人の様子をこっそり覗きに来たのだった。

「どわー!!ひのとッツ!!!」
「なになにー?何か秘密話ー?」
 ひのとがルンルンでたずねると、ピュアくんはさらりと答えてくれた。
「あぁ。今度そこにいるとおるくんとたかしくんのために、パーティーを開くんだ」
「わぁ、面白そうだね!!」

 ピュアくんは年不相応に賢く、敏感だ。
 みかどの本当の弟が目の前に現れ、複雑な心境のハズなのに、みかどの言うことを理解し、こんな器用にうそをつけるのだから。
 みかどは少し、悪い気がした。
 それに、ピュアくんにはあまり、自分たちのもめごとを教えたくはなかった。
 だからみことのコトも、この島に来て半年たって、いやいや話したのに・・・。

「さて、そろそろ本題に入りましょうか」
 今まで何も言わずにその光景を見ていた橘が、ようやく口を開いた。
 その場にいる全員の視線が、橘に向く。
「ひのと様とわたしがここへ来たのは、ヴァースト総帥の命令でも、何でもありません。ひのと様がただ純粋にあなたに帰ってきてほしいと願い、自ら迎えに来たんです」
 みかどは冷たい視線を向けてくる橘に、少し気圧される。

「正直いやでしたよ。ひのと様をこんな得たいのしれない島に来させるのは・・・。生物学的には興味のある島ではありましたけどね、地図にものってないようなこんな未開発な島、どんな危険があるかもわからないのに・・・」
「橘、わかった!わかったから・・・」
 ぐちをこぼし始める橘を、ひのとはあわててなだめる。
 みかどは少し緊張が解けた。

「ねぇ、お兄ちゃんお願いだよ、僕らと一緒に日本へ帰ろう!」
 ひのとはみかどをまっすぐ見ていった。
 ピュアくんやぽち、とおるくんやたかしくんも、みかどを見る。
 みかどは口を開いた。
「帰んねぇよ」

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