ピュア島でのその夜。
ピュア家でのいつもの夕食。
誰もが口を開かなかった。
ピュアくんと、ぽちと、ささらと・・・・、みかどと一緒にご飯を食べるのは最後なのに。
別れ際の寂しさや、むなしさだけがその場をつつみ、誰もが相手を気遣う余裕などなかった。
「ごちそうさま」
1番に食べ終わったささらは、浮かない顔でそういい、席を立つ。
そして食器を洗い場へ持って行くと、今日の夕食の残り物を、器に盛り始める。
それを見て、みかどは感付いた。
(こんな日でも、あいつらのトコもってくんだな・・・)
ふと、みかどは自分を迎えに来たビリーヴを思った。
彼の実の叔父は、はささらの義理の父親だ。
ささらがみかどとともに日本へ帰らないコトを聞いたトキ、2人の間に亀裂が入ったコトはすぐにわかった。
身寄りのない彼女が殺し屋集団にひきとられ、あの優しい叔父を心の支えにしなかったハズがない。
それがこの島に来たコトで・・・。
(・・・こんな日だからこそか)
こんな日だからこそ、いつも通りのコトをして、気をまぎらわせたいのかもしれない。
ため息が出る。
ささらが完全にビリーヴとの縁を切ってしまうコト。
自分の弟が、両目とも秘石眼だと知らされたコト。
1年間暮らしたこの島を、急遽離れなければならなくなったコト。
今日一日であまりにも多くのコトがのしかかりすぎだ。
「出かけてくるネ」
ささらが扉を閉めた音で、みかどは再び我に帰る。
見送る言葉すら、かけてやれなかった。
すると、今度はピュアくんが席をたち、一言言う。
「ごちそうさま」
そしてさっさと扉の方へ行き、ぽちとともに出かけていってしまった。
みかどは一人ピュア家に残り、またため息をつく。
(ったく・・・)
ピュアくんの表情は変らずとも、いつもより口数は少なく、態度もそっけない。
雰囲気で自分が帰ってしまうコトを悲しんでいるのは、そしてそれを隠そうとしているのはよくわかる。
だけど、こんな日だからこそ、そんな状態ではいたくない。
普通に接しろという方がムチャなのだろうか。
どんなに強くたって、結局ピュアくんだって6歳児なのだ。
そんなコトを考えながら、みかどは食器の後片付けを始める。
ピュアくんとささらが帰ってきたトキ、なんて声をかけようかと考えながら。
ふと、ピュアくんが言った言葉を思い出した。
-ごちそうさま-
みかどは顔をあげる。
今までに聞いたコトのない言葉。
この1年間、一度だってピュアくんが口にしたコトがなかった言葉。
こんな日に、「ごちそうさま」。
みかどは手を休め、再びうつむいた。
こんな日だからこそ、素っ気無い態度のピュアくんに不満を覚えたハズなのに。
特別な言葉をかけたり、かけられたりすれば、つらくなるのは自分のほうだ。
ピュアくんとささらが帰ってきたトキ、みかどは何を言えばいいのだろう。
「こんばんは」
ささらはいつもと違う笑顔で、きのえとあおいの元に訪れた。
「あ、ささらちゃん」
あおいもできるだけいつもの様子を保って、彼女に話し掛ける。
一方きのえは、ささらから少し離れた木にもたれかかり、彼女と視線をあわせようともしない。
「食べ終わったらその辺においといて。あとでとりに来るから」
「うん、ありがとう」
あおいは自分ときのえの分の食事を受け取る。
・・・・・・・・・・・・・・・が。
ムリして平静を装うとしているので、ささらとあおいもどーもぎこちない。
会話のネタがつきてしまった。
「じゃ、じゃあまた!」
「あ!」
あおいがひきとめる間もなく、ささらは素早くその場を離れてしまった。
何か逃げられたっぽいぞ、あおいちゃん。
あおいが取り残され、困っていると、ささらと目をあわせようともしなかったきのえが、大きくため息をつく。
「ったく、ムリしてんのバレバレじゃねーか」
「うん・・・」
あおいは元気なく、返事をした。
次に行くトコロは、東に入り口のある地底王国。
ささらが地底王国へやってくると、地底王国を寝床にしているピュア島の動物たちがわらわらと集まってきた。
そして口々にささらに尋ねる。
「ささらちゃーん、大丈夫?大丈夫???」
「ピュアくんやぽちは大丈夫だった?」
「ねぇ、みかどさんはやっぱり本当に帰っちゃうの?」
みかどが帰ってしまうコトを知っている動物たちは正直だ。
ストレートに自分たちの感情をぶつけてくる。
それだけに、ささらもガマンしていたものが溢れてしまいそうでツラくなる。
「こらこら、ささらが困ってるだろー」
するとひかりが動物たちをなだめ、彼らの間を通って、ささらの目の前にやってきた。
「ありがとな。夕飯」
そしていつものおおらかな笑顔で、ささらの手から夕食を受け取った。
「うん」
さりげないひかりの気づかいで、ささらも少し、気持ちが楽になる。
しかし、やはりいつものように長くここにいられる気分ではなかった。
「じゃあ、食べ終わったら、入り口近くにでもおいといて。明日とりにくるから」
軽くそう言うと、ささらは地底王国の出口へ向かう。
「ささら」
出口へ向かうささらを、ひかりが呼び止めた。
ささらが振り返ると、ひかりはいつになく真剣な顔でいった。
「ムリすんなよ」
ひかりの優しさが、かえってつらい。
ささらはこぼれそうになった涙を必死でこらえ、できる限りの笑顔で返事をした。
「ありがと」
しかし、それだけ言うと、走ってその場を去ってしまった。
自分の感情を爆発させないために。
残されたひかりや動物たちは、心配そうに、去っていくささらを見ていた。
最後にやってきたのは、南の森。
くれないのいるトコロだ。
南の森へ来て、夕飯配りは最後になる。
「くれないさん」
小川の近くにくれないの姿を見つけ、ささらは声をかけた。
すると、くれないは予想以上に彼女の出現に驚く。
「さっさっさっさ、さっさらさんッツ!!?」
えらい驚かれ方をされたので、ささらの方までビックリしてしまう。
「ど、どーかした?」
「だって、こんな日にも私に夕食を持ってきてくださるなんて・・・!あぁ、なんておやさしい・・・!!」
くれないは滝のように涙を流しながら、こんなコトを口走る。
「そんな、日なんて関係ないよ」
ささらは苦笑いせざるを得ない。
「食器は明日とりに来るから、預かっててネ」
ささらは、くれないに夕食を渡し、さっさと家に帰ろうとした。
気分が沈んでいる自分と一緒にいては、くれないに迷惑をかけてしまうと思ったからだ。
「それじゃ・・・」
「待ってください」
くれないは、足早に去ろうとするささらをひきとめた。
声の調子がいつもと違う。
ささらは、くれないの方を振り返る。
振り返って視界に入ってきたくれないは、いつもの頼りない彼ではなく(汗)、真剣な顔だった。
「少し、話していったらどうですか?」
くれないはささらを見て、優しく微笑んだ。
「私でよかったら聞きますよ」
まさかくれないからこんなコトを言われるなんて。
ささらはきょとんとしてくれないを見た。
今まで誰かに話を聞いてもらうコトなんか、ほとんどなかった。
軽い日常話なんかはともかく、悩んでいるコトを聞いてもらうだなんて。
しかし今、色んなことがのしかかっているささらには、一人になるよりも、話を聞いてくれる人が必要なのかもしれない。
くれないがこういってくれているのだ。
ささらはとまどいながらも、尋ねてみた。
「え・・・あの・・・、いいの・・・」
「がはぁッツ!!!」
「どわーーーーーッツ!!???」
「いいの」と聞こうとした矢先に、何の前触れもなく、くれないが吐血したー!!
「だだだ大丈夫・・・???」
ささらはオロオロしながら、くれないを介抱する。
「げっほげほ・・・、えぇ、大丈夫です・・・。どうぞ気にせず話してください・・・・がふっ」
そらムリだろ・・・。
はてさて、このカウンセラーくれない、どうなるコトやら・・・。
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