くれないの発作もおさまり、ささらとくれないは一息つく。
そしていつもくれないが腰かけように使っている丸太に、向かい合って座った。
「ビリーヴさんに会ったんですか?」
くれないはささらが話しやすいよう、優しい口調で話し掛けた。
「・・・うん・・・」
ささらは元気なく返事をする。
そして視線を落とすと、しばらく黙り込んでしまった。
くれないはささらが話し出すのを待つ。
ささらはしばらくして、口を開いた。
「あたしネ、ビリーヴ様せめちゃったコト、後悔してて・・・」
くれないは義父を「様」づけで呼ぶコトに疑問を抱く。
けれど今はあえて追及せずに、彼女の言葉に返事をした。
「どうしてですか?」
ささらは夕方、久しぶりに会ったビリーヴとの会話を思い出した。
「今日ネ、夕方会ったトキに、赤の一族であるあなたたちを殺すのかって聞いたら、否定できないっていわれたの」
ささらは小さくため息をついた。
「でも、あの人がそんなことするような人じゃないっていうのは、5年間一緒にいて分かってたハズだったんだ。ビリーヴ様だって、実の兄が青の一族の後継者で、バロック団の総帥だもん。あたしなんかにはわからない事情が、いっぱいあるんだと思うよ。なのに、ついカッとなって、せめたりして・・・」
くれないにはささらのいった「5年間」がひっかかる。
先ほど昼に、くれないがみかどから聞いた話は、ささらがビリーヴの義理の娘だということだけ。
どうしてそうなったのかは知らない。
くれないはタイミングを計って、聞いてみた。
「いいたくなければいいんですけど、ささらさん、何故ビリーヴさんの娘になってしまったんですか?バロック団に入らなければならなかった状況と、何か関係が・・・?」
くれないの質問に、ささらはすぐには答えなかった。
答えることを、少しだけ迷う。
この楽園で暮らしていく中、ささらがずっと忘れようとしていた事実。
誰もが気にかけていたが、誰も尋ねなかった事実。
話せるのは今かもしれない。
ささらは思った。
「あのネ・・・」
そして顔をあげて、話を始める。
「あたしのお母さん、ヴァースト総帥に殺されたの」
くれないの目を見て話すささら。
くれないはその目に少し、気おされる。
とんでもない事実を聞かされ、くれないはとまどいを隠せない。
初めて話した自分の過去に、ささらは当時の記憶を甦らせる。
少し気分が悪くなって、ささらは再びうつむいた。
「あたしのお父さんはあたしが小さい頃死んじゃってて、あたしはずっとお母さんと2人暮らしだったの。お母さんはあたしの前では優しかったケド、本当は影で人をいっぱい殺してた」
「何故・・・?」
「それは最後までわかんなかったんだ。でも、お母さんが普通の人じゃないことはわかってたよ。殺し屋集団のバロック団に狙われてた時点で、はっきりしてるケドね。もちろん、何で狙われてたのかもわからないケド・・・」
ささらは思い出したくないというように目をふせ、言った。
「あたしが11歳のトキに、お母さんはあたしの目の前でヴァースト総帥に殺された」
その体は、悲しみせいか、憎しみのせいか、わずかに震えていた。
くれないにはもはや、かける言葉すら見つからない。
「身寄りがなくなったあたしを引き取ってくれたのが、ヴァースト総帥の弟のビリーヴ様だったの。でも、ビリーヴ様の娘になったら、バロック団員であるコトを避けられなくなって」
ささらは顔をあげ、くれないを見て話す。
「あんなところにいたら、自分の身を守るために強くならなきゃいけないでしょ?その中で嫌々こんな風の能力を身につけさせられて。いずれ人を傷つけるために使うなら、いらないってずっと思ってた」
ささらはふと視線をあげて、風に乗る葉の流れを目でおった。
その風は、彼女が起こしたものだったのかもしれない。
ふと、くれないは思う。
「あたしの師匠だった人がネ、言ったの。使い道は自分次第だって。だから、強くなろうって思った。強くなってバロック団から抜け出せるようにって、抜け出して1人でも生きていけるようにって」
ささらは静かに、くれないに向かって微笑んだ。
「いつか抜け出そうと必死になって修行してる間に、初めての指令が来たの。それがピュア島へいって、みかどを連れ戻して来いっていう指令。だから今ここにいるってワケ」
くれないはそれを聞いて、いくつかの疑問が浮かぶ。
ささらの母親は、ヴァースト総帥本人が出向いてまで殺すほどの人物であったのか。
そして、ささらがたった5年間で、普通の女の子であったにも関わらず、それだけの実力がついたコト。
しかし、今はあえてそのコトにふれない。
「確かに、影でヒトをいっぱい殺してたお母さんと暮らすのはイヤだったケド、あの人はあたしのお母さんだもん・・・。そのお母さんを殺した集団で嫌々人を傷つける術を身につけなきゃいけなくて・・・・」
すると、ささらは気を取り直すかのように突然立ち上がり、そして明るい口調で言った。
「ピュアくんがさ、ここで暮らそうっていってくれたのは本当に救いだったんだよ。今毎日が楽しいもん!」
そしていつもの明るい笑顔をくれないに向ける。
くれないには、それすらも痛々しく見えて仕方がないが・・・。
「ピュアくんやぽち、みかどさんと一緒に暮らせて、きのえさんやあおいさん、ひかりさんみたいな友達もいるでしょ」
(・・・?)
くれないは自分の名前がナチュラルに飛ばされたコトに、違和感を感じる。
「とおるくんやたかしくん、きよてるくん、ふとしくん、あすまくん、だいちゃん、さくちゃん、らんぼちゃん、みんなみんないい子だし・・・」
(ささらさん・・・、私はッ!?)
くれないは必死に心の中で訴えた。
これは意識的なのか、いや、絶対無意識っぽい!
無意識に自分の名前とばされてるっぽい!!
くれないがわたわた慌てていると、ささらははっと思い出したように言った。
「あ、いけない」
くれないは期待した。
自分の名前を、自分の名前をそこであげてもらえるのだと!
「トムとボブもだよネv」
「ささらさんのアホ――――ッ!!!」
くれないは思わず、涙を流しながら全力疾走でその場を去った。
「えぇ!?くれないさーんッ!!?」
ささらはワケがわからなかったが、とりあえず、慌ててくれないをおいかけた。
*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
「ゴ、ゴメンね、くれないさん!目の前にいたから、最後に言おうと思ってたの!忘れてたワケじゃないから。ね、ゴメンね!」
何とかくれないを捕まえられたささらは、涙するくれないをなだめながら戻ってきた。あぁ、立場逆転。
まぁ、気ィ取り直して・・・。
「・・・ささらさんも、その、大変だったのですね」
うまい言葉が見つからず、くれないは困ったように言う。
ささらは小さく笑って、そんなことないよと言った。
「ビリーヴ様がいてくれたから」
くれないはビリーヴの名をこんな形で出され、少し驚く。
ささらは明るく話しはじめた。
「確かにバロック団での修行三昧の生活は好きじゃなかったケド、その中で唯一の救いは、あたしのお父さんになってくれたビリーヴ様だったからさ」
ささらは息をつくまもなく、明るい口調で言葉を並べ立てる。
「クールな人にみえるでしょ?初めて会ったトキは口数も少なかったし、冷たい人なのかなって思ってたケド、全然そんなコトないの。あからさまな愛情表現はしなかったケド、あたしの話だっていろいろ聞いてくれたし、本当に優しくていい人なんだ」
くれないには、ささらが感情を抑えることができなくなっているかのように見えた。
ささらはひとしきり喋ると、一息つく。
静寂の中、風が吹き抜ける音だけが響いた。
「・・・あたし、何だかんだいって、ビリーヴ様大好きだったんだよネ」
ささらの声は震えていた。
「・・・もう、会えなくなっちゃうのかなぁ・・・」
うつむくささらの表情は髪の毛に隠れて見えない。
けれど、涙をこらえてるコトは、すぐにわかった。
くれないは何も言わず、ささらが話し出すのを待った。
しばらくして、ささらは立ち上がる。
「ゴメン、長くなっちゃったネ」
そしていつもの笑顔でくれないに言う。
「聞いてくれてありがとう。もう帰るネ」
「ささらさん」
そしてくれないは、帰ろうとするささらを引きとめた。
「私は何もいえませんし・・・、聞いてあげることしかできませんケド」
くれないは優しく微笑んで、ささらを見上げた。
「泣きたいときは思いっきり泣いちゃった方がいいですよ。ガマンは体に良くないですしネ」
ささらの目に涙が浮かび、頬を伝った。
ホッとしてしまったのか、涙はいつまでもとまらない。
「や、やだ。どーしよ・・・、とまんなくなっちゃった・・・」
ささらはあとからあとから流れだす涙を拭いながら、まだ泣くコトをためらっているようだった。
そんなささらにくれないは優しく言う。
「いいんですよ、泣きたいトキは泣いて」
そういわれた瞬間、ささらの瞳には今まで以上に涙が浮かぶ。そして心から気を許し、
「え~~~~~~~~~~~ん!!!」
と大泣きした。
「ハイハイ」
くれないは小さい子供を慰めるかのように、ささらの頭をよしよし撫でながら慰めてやる。
「・・・くれないさん・・・」
やがてささらは震えた声で、くれないに言った。
「ありがとう・・・こんなに話せたの、ビリーヴ様以外の人では初めて・・・」
くれないはそれを聞いて、静かに微笑む。
「あたし・・・くれないさんが友達で良かった・・・」
くれない、硬直。
(ト・・・トモダチ・・・・)
ささらの言った言葉の意味が理解できたトキ、くれないは大感激した。
(私、ささらさんの友達だったんですネ!!!何で今まで気付かなかったんでしょう!あぁ、私ささらさんとみかどさんと、2人も友達ができたんじゃないですか!!天国のお父さん、お母さん、見てますかー!!)
泣いているささらに衝撃を与えるわけにはいかんので、くれないはあくまで心の中で大喜びする。
・・・でもさ、みかどさんって・・・・・、ゴメンなさい、なんでもない(目伏せ)
くれないが感動していると、ささらの頭がコツンと、くれないの肩にもたれかかる。
「さ、ささらさん!?」
ささらの突然の行動に、くれないはパニックに陥った。
「い、いくら友達といっても、こっこっこっこっこれは少々ダイタンではないでしょーか!?」
面白いリアクションです。
「で、でもまぁ、ささらさんがどうしてもとおっしゃるなら・・・・・・・・・・って」
話しながらささらの顔を覗き込み、くれないは気付いた。
ささらが疲れきって爆睡しているコトに。
「よくあるオチですよネ・・・」
そうですネ。
「くれない」
すると突然、くれないの名を呼ぶ声と供に、彼の背後の茂みから、きのえとあおいが現れた。
「き、きのえさんにあおいさん!どうしてここに・・・」
「ささらちゃんの様子があまりにも何だったから、後をつけてきたんだよ」
あおいが答える。
が、決して兄の目を見ない。そんなに嫌いか・・・。
「なら、今の話も全て・・・」
「盗み聞きしたコトになるケドよ、聞いちまった」
きのえが気まずそうに答える。
事情を理解すると、くれないは立ち上がって二人に言った。
「そうですか。なら、手伝ってもらいましょうか」
くれないは自分のマントを脱いで、ささらにかけてやった。
そしてささらを抱きかかえる。
「ささらさんをピュアさんの家へ送りますから、2人は自分たちとひかりさんの食器を運んでください」
くれないの突然の行動に、ビックリしてしまうきのえとあおい。
あのくれないが、あの吐血のくれないが、あの友達いない歴19年のくれないが、ささらちゃんをお姫様抱っこ!?
先に行ってしまったくれないの後を見、あおいが言った。
「・・・何か・・・、今日の兄ちゃんいつもと違う・・・」
「俺も思った」
きのえが同意する。
そう、いつもよりおいしいのだ(違)
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