ピュアくんとぽちが帰ってきたのは、かなり遅く、いつもならもう寝る時間だった。
しかし、ささらはまだ帰ってこない。
「何してんだ、アイツ・・・」
みかどがイラつきながら、時計を見ると、時間は夜の10時(ってかしつこいケド時計あんの?)
「~~~~ったく」
みかどは勢いよく立ち上がり、扉の方へ向かっていった。
ささらを探しにいくのだとわかったピュアくんとぽちも、何も言わずにみかどの後をついていく。
そしてみかどをが扉を開けた瞬間、
がんっ!!
扉が何かにあたった。
こんな時間に誰かと思い、扉をあてた人物を見ると、なんとその人物はくれない。
しかも片手で扉の当たったデコをおさえつつ、もう片方の手に抱えているのは眠っているささらではないか!
「くれなーい!!おまえささらに何したんじゃー!?」
みかどは慌ててくれないからささらを奪い、こんなコトを言う始末。
ピュアくんとぽちも警戒心剥き出しで、くれないを睨みつける。
「ふふふ、人のデコにドアぶつけておいて、謝りもせず、その上濡れ衣まで着せるのですか・・・」
くれないは涙を流しながら、皮肉な笑みをこぼした。
せっかくささらちゃんを送り届けに来たのに。
これでこそいつものくれない。
まぁ、気ィ取り直して・・・。
「泣きつかれて、眠ってしまったんです。ささらさん」
くれないにそう言われ、みかどは抱きかかえているささらの顔を見た。
わずかに、頬に涙が流れた跡が付いている。
「食器はあとできのえさんとあおいさんが持ってきてくれますから」
くれないはたんたんと用件だけを話すと、みかどに背を向ける。
「では、私はこれで」
ささらの過去を知ったとまどい。
そして目の前にいる友(一方通行)との別離。
長く顔をあわせていたくはなかったのだろう。
くれないはさっさと森の中へ帰っていってしまった。
みかどはめずらしく素っ気無いくれないの態度に少し驚き、しばらく、彼の去ったあとを見つめていた。
すると
「兄ちゃん」
ピュアくんが声をかける。
「もう寝る時間だぞ」
そして用件だけ言うと、ピュアくんもさっさと家の中へ入っていってしまった。
「・・・あぁ」
みかどは返事をして、ピュアくんの後をついていった。
結局別れの挨拶らしきものは、何一つ交わしていない。
ピュアくんとぽち、ささらを寝かせてから、どれだけ時間がたっただろうか。
みかどはまだ、起きていた。
彼らの寝顔を見て、胸中に渦巻くのは別れのつらさだけ。
明日の朝一に、みかどはこの島をたたねばならない。
本当に最後に、別れの挨拶をするために、出発前に彼らを起こすべきだろうか。
みかどは考えた。
けれど、ピュアくんはこんな状態だし、ささらは・・・、きっと泣くだろう。
ただでさえビリーヴとの、義父との別れに悲しんでいるのだ。
これ以上彼女を悲しませるわけにはいかないと、みかどは思った。
突然のこの状況に、まだ6歳のピュアくんが素直になれないのも仕方のないこと。
これ以上、ピュアくんを刺激するようなコトはしたくない。
みかどは空を仰いで、ため息をついた。
(俺は、1年間もここにいたんだな・・・)
窓から、朝の光が差し込む。
結局一睡もできなかった。
立ち上がり、音をたてないように、ピュアくんとささらの近くへ行った。
そして崩れた掛け布団を、そっとかけなおしてやる。
哀しそうな顔をして眠るささら。
ぽちを抱きしめて眠るピュアくん。
二人の顔を見て、みかどは心の中で呟いた。
(・・・・ゴメンな・・・)
扉を開ける。
そして音を立てないよう、そっと扉をしめ、1年間暮らしてきた家を、後にした。
待ち合わせは東南の森。
かなりの明け方なので、地底王国の入り口がある、東の森の近くでも、動物1匹の姿もない。
海岸近くの森の中、ビリーヴと彼の乗ってきたヘリを見つけた。
ビリーヴはみかどの存在に気付き、ヘリから降りた。
「・・・・もういいのか?」
みかどは小さく首を縦にふると、しっかりした目で言った。
「おじさん、帰ろう」
みかどの決心を悟り、ビリーヴはみかどにヘリに乗るよう、促した。
ヘリがピュア島から浮上する。
誰の見送りを受けるわけでもなく、誰にも知られず、ひっそりと飛び立つ。
それがみかどの願いでもあった。
みかどはあえて、窓の外を見ようとはしない。
ヘリが徐々に雲に近づく。
ビリーヴは初めて来たこの不思議な島を、最後にもう一度だけ見下ろした。
そしてふと、視界に入ったものに驚き、戸惑った。
けれど、今は自分よりも甥のこと。
「みかど」
ビリーヴに名を呼ばれ、目をあわすと、窓の外を見るよう促された。
みかどは複雑な気持ちで、窓の外を見下ろした。
そして、視界に入ったものは・・・。
ヘリはあっというまに過ぎ去ろうとする。
けれど、しっかりと見た。
ピュア島で一番高い山のてっぺんで、自分を見送る家族を。
無表情だったが、ヘリの窓越しにしっかりとみかどの目を見ていたピュアくん。
ささらの腕に抱かれ、哀しそうな顔でヘリを見送るぽち。
そして今にも泣き出しそうな顔をしたささら・・・
違う。
みかどは気付いた。
今にも泣き出しそうだったのは自分。
別れの挨拶を言うコトをためらい、素直になれなかったのは自分。
「ピュア!!」
みかどは叫んだ。
しかし、その声はヘリにかき消され、届くことはなかったろう。
窓に手をつき、みかどは崩れ落ちる。
「・・・ゴメン・・・・、ゴメンな・・・・・」
涙を流した。
涙はとまらなかった。
そしてどんどん遠ざかるピュア島。
どんどん遠ざかるピュア島で一番大きな山。
・・・・ピュア島での、自分の家族。
「・・・・みかど」
ピュア島が見えなくなった頃、ビリーヴが静かに言った。
「おまえ・・・変わったな・・・」
ピュア島での1年間を知らないビリーヴが、思ったことだった。
ある日のピュア島の夜明け。
まだ誰も起きていない時間に、ピュア島で一番高い山の上で。
ささらは涙を流して、ヘリが見えなくなっても、ずっとその方向を見つめていた。
ピュアくんも
ずっとずっと、ヘリが去っていった方を、見つめ続けていた・・・。
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