誰もいない部屋。
誰も訪れない部屋。
一体ここで、何度兄を呼んだだろう。
「お兄ちゃん・・・」
ずっと1人だった。
ずっとずっと閉じ込められたままだった。
会いたくてたまらなかった、兄。
「来たんだネ、お兄ちゃん・・・」
みことは目を開く。
兄が来たコトを知らせてくれたのは、その両の眼。
大きな力を持ったその瞳は、ぼんやりと青く光っていた。
「ねえ、一緒に住もう!」
突然のささらちゃんの一言に、驚きに驚くきのえくん&あおいちゃん。
「なっ・・・!」
「何言ってんの!?」
慌てるきのえとあおいに、気付いているのかいないのか(たぶん後者)、ささらはマジ顔で話を続ける。
「だって、みかどさんがこの島にいないってコトは、いつバロック団がこの島に攻めてくるのか、わからないんだよ」
その事実は自覚していたけれど、改めて、この島で育ったワケではないささらに言われてしまうと、正直番人としてはツライ。
「東西南北の番人それぞれの方角を守るのが役目だケド、散らばらないで固まってた方がいいと思うの。バロック団は、絶対1人や2人で太刀打ちできる数ではこないハズだから」
それはきのえもあおいも感じている。
バロック団は、世界規模の大きな集団なのだから。
「総帥は赤い秘石に相当執着してるみたいだから、総帥自ら出向いてくると思う。この島はかなり南にあるし、総帥はここ数年日本にとどまってるから、上陸する場所はともかくとして、やってくる方角は北から」
生まれてからこの島を出たことのない彼らは、いまいち地理がわかっていない。
わかるよう、ささらは地面に小さな木の枝で、簡単な位置関係を記す地図を書いてみる。
「日本以外にいる可能性もあるケド、だとしても大きい支部のあるここ、アメリカっていう大陸か、こっちのヨーロッパっていう大陸のハズだから、北から来るのは確実」
あおいはささらの描いた地図を見て、ピュア島の西、南、東を指差して尋ねた。
「この辺りに国はないの?」
ささらはあおいの指さした場所に、簡単な大陸の絵を書き始める。
「ここらへんにはオーストラリアとか、ブラジルとか、大きな国もあるケド、さっき言った国ほど、バロック団の勢力は強くないから、総帥がこの辺から来るのは考えられないわ。向こうはこっちの生き残りが少ないのはわかってるから、あえてあたしたちの裏をかいて、この辺から攻めてくるコトはしないと思うし」
ささらはそう言って、ピュア島の西と南と東のあたりにある国を、ばってんで消した。
「だから、常に北を意識してれば、向こうは着陸する時間もあるはずだから、いきなり襲われるコトはないハズ」
そういうコトに疎いきのえとあおいは、ささらの描いた地図を見て、ただただ聞いて、納得することしかできない。
「あたしたちはピュアくんの家で、待機できる状態でいて、動物たちは地底王国へ非難させればいいかなって思ったの。16年前にバロック団に襲撃されたトキ、きのえさんたちも動物たちも、地底王国にいたから助かったんだよネ?」
話をふられ、2人はうなずく。
当時きのえは3歳、あおいに至っては1歳だったから、ほとんど記憶にはないけれど、ひかりから話は聞いていた。
「ピュアくんを戦わせるのは正直イヤなんだケド、でも、今回は戦力が少なすぎるから、あの子の力は必要だし・・・」
それを聞いて、きのえをあおいは思わず、顔を見合わせる。
むしろそれは、彼らがささらに対しても思っているコトだった。
彼女はつい最近からこの島に住み始めるようになった、赤の一族でも青の一族でもない少女。
この島に住んでしまったために、こんな争いに巻き込ませてしまうだなんて。
しかしそれよりも、彼女の意見を聞き終えて、2人ははあまりのささらのしっかりした様子に驚いた。
これが昨日の夜、泣いてた娘だろうか。
てっきり義父との別れ、そしてみかどとの別れに、まだ悲しんでいると思ったのに。
彼女の頭はすっかり対バロック団に向けて、きりかえられていたのだ。
そしてきのえもあおいも、自分たちの甘さに気付かされる。
「それと・・・、ピュアくんを励ましてあげたいの」
ささらはふと、緊張を緩めた。
「完全に励ましてあげるのは無理かもしれないケド、みんなで一緒に暮らしたら、少しは寂しさも紛らわせるコトができるかなと思って・・・」
2人は、番人たちはピュアくんが赤ん坊の頃から接してきた仲だ。
ピュアくんが心配なのは、彼らだって一緒なのだ。
「きのえさんたちもさ、いつも野宿じゃ何でしょ?もっといっぱいちゃんと食べなきゃだし!まぁ・・・、あたし料理はできないケド、掃除も洗濯もするからさ、ダメかな?」
ささらは遠慮がちに尋ねる。
今までの理由を聞いて、きのえもあおいも断る理由は浮かばない。
むしろ賛成だ。
「ダメじゃねーよ。ただ~・・・、その・・・・」
きのえはささらから目をそらし、きまずそ~な態度をとる。
隣りにいるあおいも同様。
そう、彼らには素直に頷けないとまどい要素がある。
女の子と同じ屋根の下で暮らすだなんてッ!!
バロック団がいつ攻めてくるのかわからない今では、そんなコトは大した問題じゃないんだろうが、どーにもこーにも、生まれも育ちも島暮らし、女の子とお話したのはささらちゃんが初めてなお2人には、大した問題なのだ。
(何でみかどは平気だったんだろう・・・)
2人は頭を抱えた。
単にささらちゃんを女だと思ってなかったんだと思いますよ。
「え、ゴメン、何ていった?」
きのえの語尾が消え入ってしまったので、ささらは聞き返す。
当然二人の顔が赤いコトなんて、気付いてやしないのだろう。
困りに困り果てたきのえくんは・・・
「何を言う!?オマエの耳が遠いんじゃー!!」
「はぁ!?」
ケンカ売ってみた。
「明らかにきのえさん、ボソボソ喋ってたじゃんかー!」
「そんなコトねーよ!すげぇいい滑舌だった!!」
「え、絶対ウソ!じゃあ『東京都特許許可局』っていってみてよー!」
「あーん?東京都特許きょきゃ・・・!?」
「ホラ、いえてないー!」
「うるっせぇな!しかも意味わかんねーよ、何だよその単語!」
「この島暮らし!『東京』は日本の首都名よ!」
ああ、もう、またも繰り広げられる小学生レベルの口げんか・・・。
いつものように始った口論を、いつものようにオロオロしながら見守るあおい。
しかし、きのえの気持ちもわかる。
あおいもささらとあの部屋分けされてない家で一緒に暮らすのは、正直ドキドキなのだから。
だけど、バロック団のコトも考えて、今はそんなコトいってる場合じゃない。
「わかったよ!僕たち、ささらちゃんと一緒に住むよ!!」
あおいの一言に、口論してたささらときのえが同時に振り返る。
「あ、本当?よかったぁ♪」
「・・・・!!!!」
リアクションは違えど。
「ああああああああおい~~~~!!!」
きのえは顔を真っ赤にしてあおいの胸ぐらをぐわしっと掴んだ。
「だ・・・、だって・・・・」
「だってじゃねーだろ!あの部屋わけもされてないよーな単純なつくりの家で、一緒に暮らすんだぞ!?」
「わかってるよ、だけど、そういうしかないだろ?僕らにもそれが一番いいんだし・・・」
きのえとあおいがモメてるのを気にもかけず、一緒に暮らせるコトになったささらは大喜び。
「じゃあ、ひかりさんも誘いに行こー!」
ご機嫌でふわりと体を浮かせ、東の森の方へ向かおうとする。
それを見て、それまでもめてたきのえもあおいも、ちょっと脱力してしまう。
「こいつ、俺たちのコト、男と思ってねーな・・・」
「・・・・・だね」
焦ってた自分がちょっとバカバカしくなったきのえくんと、そんな2人を見て、思わず苦笑いしてしまうあおいちゃんでした。
「ほっほっほ、随分と頼もしい娘さんがやって来たモンじゃのぉ」
突然ささらの耳に入って来た、聞き覚えのない声。
ささらはあたりを見回すが、まだ話をしているきのえとあおい以外には、動物の姿も見あたらない。
「どっこいしょ」
「!!?」
突然、頭の上に何かがのしかかってくる重い感覚がした。
「きゃあああああ!?」
ささらは思わず、悲鳴をあげてしまう。
「どうしたの!?」
その悲鳴に反応して、きのえとあおいがささらの方をむく。
「あ、あれ、何だ。カエルさんかぁ・・・」
そして聞こえてきたのはそんな言葉。
ささらに隠れて、そのカエルの姿は見えないが、きのえとあおいはそのカエルに心当たりがある模様。
「ほっほっほ、カワイイ娘さんじゃのーv」
そしてそのカエルの声を聞いて、確信する。
「このやらしー声は・・・!」
「間違いない!!」
「ガマ仙人!!!」
きのえとあおいの声がきれいにハモった。
一方バロック団日本支部。
みかどとビリーヴは、長い長い廊下を歩いている。
前日の夜に、みかどとビリーヴは日本へついていたが、着いたのは夜遅くだったので、みかどはビリーヴの家にとまった。
そして今日、ようやくみことに会わせてもらえるコトになったのだ。
「久しぶりのバロック団はどうだ?みかど」
並んで歩く叔父が、言葉をかける。
「ムカつくよ」
みかどは思ったままをぶつけた。
ビリーヴはそれを聞いても動じるコトなく、みかどから視線をそらす。
そして扉の前にやってくると、足をとめた。
機械仕掛けの大きな扉。
暗証番号を入力しないと決して開くコトのない、頑丈な扉。
「・・・ここにみことがいるんだね」
みかどは口を開いた。
「そうだ」
ビリーヴは答える。
そしてビリーヴは暗証番号を入力し始めた。
その間、みかどの視線は目の前に立ちはだかる、頑丈な扉に向かう。
可哀想に。
両眼とも秘石眼だというその事実だけで、こんな頑丈な扉の中にずっと閉じ込められていたのか。
みかどは思った。
あの島へ漂流する少し前に、父親の手によって姿をくらまされた弟。
弟を探すために、家を出たトコロ、団員に追われるハメになり、攻撃されてあの島へ漂流するに至った。
1年・・・いや、もう2年たつのかもしれない。
ずっと1人だった弟に、何て声をかけてやろう。
久しぶりに出会える弟に、どう接してやろう。
会いたい。
ただ、その気持ちだけが高ぶった。
ビリーヴが暗証番号を入力し終えると、扉が機械的に開きはじめた。
中にいるハズである弟の名を、みかどは呼んだ。
「みこと-・・・・・・」
けれど、視界に入って来た人物は・・・・。
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