【第1部】第9話 光と影

「ねぇ、お兄ちゃんが来てるんだって」

 両の瞳が知らせてくれたその事実に、みことはウレシそうににっこり微笑む。
「早く会いたいなぁ」
 そして抱きかかえているぬいぐるみに向かって、話し掛けた。
「呼んでみようか」
 みことは立ち上がり、宙を眺めた。
 そして再び、瞳を青く光らせる。

「ゴメンなさい、ゴメンなさい!」
「ボクらのせいで、ゴメンなさい~!」
 と、ジュースとお酒を間違えてささらに渡してしまったコトに罪悪感を感じ、ひたすら謝るとおるくんにたかしくん。
 動物たちがおろおろ見守る中、
「うがーっ!!!」
 もはや人の言葉を話さないほど荒れてしまっているささらに
「ぎゃーー!!」
 振り回されるくれない&きのえ&あおい。
 それを見ながら爆笑しているひかり。

 遠くでそれを見守っていたガマ仙人が、ふと口を開いた。
「おまえもみかどがいなくなって寂しいんかの、ピュア」
 あっちの騒ぎは無視するコトにしたらしい。
 しかしピュアくんはガマ仙人の問には答えない。
 返事がないので、ガマ仙人もおかしく思い、ピュアくんの顔を覗き込む。

「僕と同じヤツがいる・・・」
 まるで何かに共鳴するかのように、ピュアくんの両目は赤くぼんやりと光った。
(秘石眼が・・・)
 ガマ仙人はぼんやりと光ったピュアくんの瞳を見て思った。
 両目に秘石眼を持つもの同士の共鳴か。
 ガマ仙人はふと、青い海の向こうを見つめる。

 詳しい方角はわからない。
 けれど、おそらく、この遠い海の向こうにいるであろう、両目ともに秘石眼の少年。

-何かが起こる、予感がした-

 ゴゴゴゴゴゴ・・・・・

 突然揺れ始めたバロック団日本支部。
 揺れは総帥の部屋まで伝わってきて、思わずみかどたちも立ち上がる。
「地震・・・?」
 立ち上がったみかどは辺りを見回し、そう思う。
 しかし、ヴァーストもビリーヴも何も答えず、揺れがおさまるのを待っている。
 彼らの落ち着きよう、理由を知っているのだろうか。
 みかどは思った。

 それを尋ねようとしたトキ

 呼んでる

 そう感じた。
 みかどは思わず、自分の後ろを振り返る。
 そこには誰も、いるはずがないのに。
「みかど?」
 みかどの様子がおかしいコトに気付くと、ビリーヴはみかどの名を呼んだ。

 しかしみかどは答えない。
 それよりも自分を呼んでいる誰に、意識が向く。
 その人物はここにはいない。
 だけど、どこか懐かしく、いとしく・・・・

(まさか・・・)

 みかどは思った。
 思ったと同時に、揺れがおさまらない中、総帥室のドアを開けて、どこかへと走っていった。

「みかど!」
 ヴァーストが去り行く息子の名を呼ぶ。
「兄さん」
 ビリーヴは長い前髪で隠れた、今はなき右目に触れる。
 この揺れが始ったトキから、疼いて仕方がなかったのだ。
「秘石眼を持たないみかどにさえ、共鳴させるほどの力を持っているのか」
 ビリーヴに呼ばれ、ヴァーストが振り返る。
 その両目は青く、何かに共鳴するようにひかっていた。

「あの子の力は、計り知れない」

 みかどは広いバロック団内を駆けながら、自分が行くべき道を確実に走っていた。
 その道を示してくれるのは自分を呼んでいる、この懐かしい不思議なオーラ。

「待て!!」
 最上階にたどり着いたトキ、二人の見張りがいた。
 しかし、揺れがまだおさまらないために、彼らの足取りもおぼつかない。
 みかどは彼らをふりきって走った。
 そして小さな通路を見つけ、その中へと進んでいく。

(わかる)

 この懐かしい感じ。

(もうすぐ会える)

 このいとしい感じ。

(そこにいるのか!)

 自分を呼ぶ、不思議な力!

 みかどがたどり着いたトコロは、バロック団最上階の隅っこ。
 目立たない狭い通路を曲がりくねって、奥へ奥へ進んでいって、やっと見つかった小さな扉。
 みかどは息をととのえる。
 そしてみかどの気持ちが落ち着いてくると同時に、団内の揺れもおさまった。

「ここに、みことがいるのか・・・」
 みかどは小さな扉に手を触れたが、簡単に開くものでないコトは、すぐにわかった。
 また取り付けられている暗証番号入力式のコンピューター。
 開け方なんて、自分が知っているワケがない。

 みかどは一歩後ずさって、小さな扉の全貌を見た。
 小さくもとても頑丈そうな扉。
 素手で壊せるだろうか。

 いや、壊さなくてはならない。
 ここでずっとずっと、自分を待っていた人物がいるのだから。

「せいっ!!」

 みかどはありったけの力を右拳にこめて、扉を殴った。

「・・・・・・・・・・・・!!!!!」
 そしてその後に走る激痛とぴゅーっと流れる多量の血。
 みかどはあまりの痛みに声も出せず、思わずその場にうずくまる。

「・・・お兄ちゃん?」
 みかどの耳に、可愛らしい声が届いた。

「お兄ちゃんだ!」
 聞こえた声のトーンが、元気になる。
 みかどは勢いよく顔をあげた。

 痛みも何もかも、ふっとんだ。

「みこと~~~ッツ!!」

 Pure Soul小説初!みかどはフォントサイズ48pxで叫んだ!
 そして小さな弟をひょいと抱き上げる。

「みこと!本当にみことなんだな!」
「うん!お兄ちゃんこそ、本当にお兄ちゃんなんだよネ!」
「あったりまえだろ~~~!!」
 みかどはたまらなくなって、抱き上げたみこと、をぎゅーーーーっと抱きしめた。
 そして溢れ出す涙と鼻血。

 ・・・ええと、一言断り忘れた気がするのですが。
 みかどはかなりのブラコンです(末っ子限定)

「いたぞ!」
「みかど様!!」
 先ほど、最上階の入り口で会った見張りが、みかどの後を追ってやってきた。
 そして 涙と鼻血をたらし、なおかつ右手からもダラダラ流血している総帥の長男を見て、パニクった。
「んだーーーッツ!!」
「みかど様!お気を確かにッツ!!」

 みかどの幸せそうな笑顔が、ますますヤバさを倍増させている。

「!!」
 みかどの大惨事に気をとられていて気付かなかった。
 見張りの2人は、みかどの腕に抱きかかえられた少年を見、動きを止める。
「みっ、みこと様!」
 2人は後ずさった。

 うろたえた2人を見て、みかどはようやくそこにいた二人の存在に気付く。
「あぁ、おめーらいたの」
 幸せそうな笑顔を浮かべ、涙と鼻血をたらしたまま。
 やっぱヴァーストの息子だわ。

「急げ、ヴァースト総帥に知らせないと!」
 しかし、見張りの2人はその場から駆け出し、逃げていってしまった。

「・・・何ビビってんだ、あいつら」
 残されたみかどはあっけにとられてしまう。

「お兄ちゃん!」
 みことが兄を呼ぶ。
 みかどはすごい勢いで弟の方を振り返った。
「久しぶりだね。元気だった?」
 動物のぬいぐるみを抱きかかえ、にっこり微笑む金髪で青い瞳の美少年。
「あたりまえじゃないか・・・!」
 みかどは成長したみことに感動して、さらに涙を流す。
 しかーし、今は感動に浸っている場合ではない!

「じゃねぇや!みこと、お兄ちゃんと一緒にここから逃げよう!」
 みかどは突然キリっと、真剣な顔に戻る。
 そしてみかどはみことの手をとった。
 もう二度と、この手を離すものか。

「今からピュア島へ行くんだ」
「ピュア島・・・?」
「そう、お兄ちゃんがしばらくいた島だ。あそこならもうみことを閉じ込めるヤツもいないし、みんないいヤツらばかりだから、みことも絶対気に入るよ」
 みかどは微笑んだ。

 そう、ずっとずっと連れて行ってあげたかった。
 みことをピュア島へ。
 あそこならきっとみことも気に入る。
 人間の言葉を話す動物たちが暮らす、南国の楽園。
 わからずやの父親の元から逃げるためにも、今すぐピュア島へ戻ろう。

 みこともつられてウレシそうに微笑む。
「うん、わかったよ。でも、僕その前にやらなきゃいけないコトがあるんだ」
 みかどはかがんでみことと視線を合わせ、笑顔で尋ねる。
「やらなきゃいけないコトって?」

「パパを殺すの」

 ・・・・・・・みかどの表情は凍りついた。
「へ・・・、な、なんだって・・・?」
 みかどが聞き返すと、先ほどまでにこにこ笑っていたみことはどこへ行ったのだろう。
 嫌悪感剥き出しの表情を見せ、みかどから視線をそらした。
「だって、パパ僕をこんなところにずっととじこめてたんだよ。大っ嫌い」

 父親を嫌うのも無理はない。
 自分だって、大切な弟を世間から隔離した父親が嫌いだ。
 自分と真正面から向き合ってくれない父親は大嫌いだ。

 しかし、「殺す」という発想にはどうしたものだろう。
 みかどが何かを言おうとした瞬間だった。

 みかどは何ものかに肩をつかまれ、ぐいと後ろに引き戻される。

「とんでもないことをしてくれたな」

 振り返れば、そこにいたのは父親、ヴァースト。
 普段決して自分には見せない厳しい表情に、みかどは少し戸惑った。
 いつもヘラヘラ笑っている父親が見せた、厳しい表情に。

 しかし、それよりもみことと一緒にいたい気持ちが高ぶる。

「なぁ、頼むからみこと自由にしてやってくれよ!まだたったの5歳なんだ・・・」

ドゥッ!!

 みかどが全てを言い終わる前だった。
 何か大きな衝撃波が自分に向かってきたのだ。
 みかどは慌てて避ける。

 この衝撃波を、みかどは知っていた。
 自分が最も得意とする、いや、自分たち青の一族が最も得意とする、必殺技「眼魔砲」だ。
 そして、それが飛んできたほうを見る。

 自分に向けて眼魔砲を打ったのは、みこと。

「邪魔だよ、お兄ちゃん」

 そう一言言うと、すぐにその視線の大嫌いな父親に向けた。
 みかどはみことがためらいもなく自分に眼魔砲を打ってきたコトにショックを受け、とまどいを感じる。
 思わず、ヴァーストの顔を見た。

 ヴァーストはみかどより一歩前に出て、みことを厳しい目でにらみつけた。
 そしてそのまま、みかどに一言言う。
「みかど、危険だからどいていなさい」

 何だこれは。
 悪い夢でも見ているんだろうか。
 みことが父親を本気で殺そうとしている?
 そのためにためらいもなく眼魔砲を打った?

「みこと!!」

 信じたくなかった。
 みことがそんなコトをするなんて。

 みかどはみことの名を呼んだ。
 みことには聞こえていたはずだ。
 しかし、みことはこちらを見ることすらしてくれなかった。

 みかどはみことの元へかけようとする。
 しかし、そんなみかどの腕をつかんで、とめる人物が。

「よせ、みかど!敵う相手じゃない!」
 とめたのは追いかけてきたビリーヴ。
「何いってんだよ、おじさん!」
 みかどはビリーヴの手を振り払おうとあがいたが、ビリーヴは離してくれなかった。

「まだわからないのか。私やお前がさんざん修行して会得した眼魔砲を、5歳のみことは打ったんだ!」

 その事実を自分以外のものの言葉で語られて、みかどは気付かされる。
 みことの秘められた力の大きさを。

 みかどは力なく手をおろす。
 ビリーヴもみかどが動かないことがわかると、手をはなしてくれた。

「あの子は三歳のときから、世間から隔離され、とじこめられていたんだ。誰があの子に、何が悪くて、何がよいかを教えてこられたと思う」
 みかどはその言葉を聞いて、みことを見た。

 誰も教えてくれる人なんかいなかったんだ。
 そんなみことに、何がよくて何が悪いかなんて、わかるはずがない。
 だけど、それを力でねじふせていいのか。
 ヴァーストが今からしようとしているコトは、そういうコトじゃないのか。

 みかどの中の葛藤が、大きくなる。

「よくも僕をこんなところにずーっと閉じ込めてくれたね」
 みことは憎らしい父親をただただ睨みつける。
「パパなんか大嫌いさ」
「嫌いで構わん。部屋に戻れ」
 みことの言葉に、ヴァーストは動じることなく、すぐに答えた。
 自分の言葉が聞き入れてもらえないとわかると、みことも
「やだ」
 と、すぐに返事を返す。
 そうして、右手に青い光を作り出した。
「僕はアンタを殺すんだ」

 眼魔砲だ。

 みかどにもビリーヴにも、すぐにわかった。
 そしてその威力がとてつもないコトも、すぐにわかった。

 いくら強いヴァーストだって、あんなものを食らったら無事ではいられない。

 危ない。

 その気持ちだけが先走った。

「父さんッ!!!」

 みかどが駆け出す。

 みことが眼魔砲を放つ。

 ヴァーストがみかどにかばわれる。

-何かが起こる、予感がした-

どすんッ。

 暴走していたささらが、突然、力を抜く。
 ささらに胸倉をつかまれていたきのえとあおいが、しりもちをついた。
 そんでもって、ささらの足元のくれないは、既に虫の息。

「いってーな!いきなり何だよ!」
 きのえが座り込んだまま、ささらに向って怒鳴った。
 しかしささらは目を据わらせたまま、遠く、海の向こうを見つめたまま動かない。
 突然おとなしくなってしまったささらに、きのえとあおいは思わず顔を見合わせる。

 ガマ仙人が遠巻きに、その様子をしっかりと見ていた。
 そしてふと、隣りにいたピュアくんに視線を移すと、ピュアくんもささらと同じ海の向こうを見つめたまま。
「どうした、ピュア」
 ガマ仙人が尋ねた。

「・・・兄ちゃん・・・」

 ピュアくんが小さく、呟いた。

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