【第1部】第10話 ピュア島のひみつ(未完)

 西の空はまだ薄暗い、ピュア島の明け方。

 いつもなら動物たちや住人は、自分たちの寝床でぐっすり休んでいる時間。
 今日はみんな、浜辺でお酒とおつまみの残骸とともに、ぐっすり眠りこけていた。

 「みかどさん、帰っちまってコンチクショー飲み会」は、結局オールナイトで行なわれ、それぞれがみかどさんへの思いを、お酒を飲んでぶつけた。
 お酒初体験のささらちゃんが、実は酒乱だったコトが判明して、大変な騒ぎになったりもしたけれど。
 まぁともかく、疲れきったみんながぐっすり眠る、そんな明け方。

 バラバラバラバラバラバラバラ・・・・・・・

 ヘリコプターの音が、近づいてきた。

「ん~・・・・?」
「何の音だ・・・?」
 ヘリの音が近づくにつれ、動物たちも、番人たちも目を覚まし始める。

 みんなが揃って空を見上げると、そこには見覚えのあるロゴが入ったヘリが二台。
 みんな寝ぼけた頭で、何のロゴだったかなーとボンヤリ考える。

 「B」、「A」、「R」、「O」、「Q」、「U」、「E」と描かれたロゴ。
 繋げると、「Baroque」。
 発音すると、「バロック」。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「バロック団ッッ!?」

 何のヘリかを認識した途端、みんなの目はパッチリ覚めた。

「うわー!うわー!大変だー!」
「誰だよ、昨日の今日で襲ってきたりしないとか言ったの!!」
「何の準備もできてないよー!!」
「ってー!何後片付け始めてるんだー!」
「お客様招くんじゃないんだぞー!」
「ごふっ!!」
「おーっと!くれないが驚きのあまり、本日一発目の吐血だー!!」
  そしてみんな起き上がり、どたばたと騒ぎ始める。

 みんながそんな風にパニックしている傍ら。
 ひかりとガマ仙人は、着地しようと、島の内部へ飛んでいくヘリを見送る。
「ふむ、やはり何かあったようじゃのう」
 ガマ仙人は起きぬけの軽い体操をしながら、ひかりに言った。
「やはりって、心当たりでもあるのか?」
 ひかりもともに起き抜けのストレッチをしながら、話し掛ける。

「うむ。昨日飲み会をやっている最中に、ピュアの秘石眼が光ってな」
「あー、それじゃあ何かあるかもしれないなー」
「ってゴルァ!ひかり!!何悠長に朝の体操なんかやってんだー!!」
 話のないようにそぐわず、のんびり体操をしているひかりの胸倉を、きのえがいきなりひっつかむ。

「何を悠長にって、お前らこそ何焦ってんだ?」
 しかし、きのえがいくら切羽詰まってようが、何のその。
 ひかりはマイペースにきのえに尋ねた。

「なっ、何をって・・・!」
 ただでさえ短気なきのえくん、ぷっつん。
「おんまえ、今の見たろ!!バロック団が攻めてきたんだぞ!赤の秘石奪って、この島を滅ぼす気だ!とっとと避難しねーと、動物たちも俺たちも、死んじまうだろ!」

 ヒステリックになっているきのえの指差す方向には、慌てている動物たちをなだめながら、避難場所へ導こうとするあおい。
「みんな!押さないで、かけないで!喋らないでー!」
 そして、サポートのくれない。
「『おかし』の法則を忘れてはいけませ・・・がふッ!!」
 しかし、すぐ吐血。

「もー、あんたがいると余計みんながパニクるから、あっち行ってくんないかな!
「・・・・・・・・・・!!」←ショック。
 珍しくこの兄弟が一緒に何かをしているかと思えば、やはりオチはこれであった。

「あー、慌ててるトコ悪いんだケドさぁ」
 そんな様子を見ても、ひかりは一行に切羽詰る様子はない。
「あんだよ!」
 そしてきのえも相変わらず、イライラしているそんな中、

「みんな、静かにしろー!!」

 ピュアくんの大きな声が、響き渡った。
 どたばたしていたみんなはその声に反応して、ピタッと動きをとめる。
「ささらが二日酔いなんだ!大きな声出したら、可哀想だろ!」

 ピュアくんに言われて、みんなは初めてその事実に気がつく。
 見ればそこには、大きな岩にもたれかかって、ぐったりしているささら。
 その近くでは、ぽちが心配そうにお水を持って、付き添ってあげている。

「さ、ささらちゃん!」
「大丈夫ー!?」
 酒豪揃いのピュア島の動物&番人たちには、慣れない光景。
 みんなビックリしてささらに駆け寄った。

「うん、だいじょぶ・・・」
 みんなに心配かけまいと、小さく笑うささらちゃん。
 けれども、その微笑みは非常に頼りなく。
「ゴメンね、ぼくたちが間違えてお酒飲ませちゃったせいでー!」
 罪悪感にかられた動物さんたちは、半泣き状態でささらちゃんに群がった。

 たった一口であれだけに酒乱に化け、そしてこの二日酔い。
 自分はお酒に相当弱いのだと、ひとつお勉強してしまったささらであった。

 みんなのパニックが落ち着いた頃、
「あー、おまえらー」
 ひかりののんきな声が、動物さんたちの動きをとめた。
 そしてひかりさん、あっさりとこんな一言。
「さっきから避難避難いってるケド、あれ、たぶん襲撃じゃないぞ」
「へぇ???」
 動物さんたちは、真の抜けた声を出してひかりを振り返る。
「いやだって、ピュア島襲撃にヘリ二台って、少なすぎだろ?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 言われてみればそのとおり。

「なーんだー、慌てて損しちゃったよ~」
「よかったー、攻めてきたんじゃなかったんだ~」
 動物さんたちは緊張の糸をぷつんと切って、その場にヘタンと座り込んだ。

「それじゃあ、一体なんのために来たんだろう」
 あおいはまだ、警戒しながらヘリが着陸していった方を見つめる。
「さぁな。ってか、ひかり!早く言えよッ」
「やー、おまえらのテンションの高さに圧倒されちまって」
 その後ろでは、怒るきのえを、ひかりがのん気にかわしていた。

 などとみんなが騒いでいる中、


「うわぁ~!久しぶり~!」
 森の入り口から無邪気というか、のんきな声が響き渡る。
 みんなが振り返ると、そこには目をキラキラさせてこちらを見つめるひのとの姿。
「ひのとくん!?」
「わぁ~!うさぎくん、たぬきくん、久しぶりだネ~!」
 声をかけられるとすぐに、ひのとはとおるくんとたかしくんの元へ突進し、二匹をぎゅう~!っと抱きしめた。

「ひのと様ー!そのような小動物に素手で触るなど、不衛生極まりない!」
 すると今度は森の中から、ひのとの過保護なお世話係、橘が飛び出してくる。
 その後ろからは、それを冷めた目で見つめる、見目麗しいビリーヴが。
「あぁ!ビリーヴさんも!」
 動物たちは、知っている顔にビックリしながら彼らの方へと駆け寄っていった。

 そしてその後ろからは、ピュア島のみんなが知らない男の人。
 雰囲気がどことなく、ビリーヴに似ているなと思いながら、ぼーっと彼を見ていると、
「・・・・・・・・!」
 その後ろから、みんなの見慣れた人物が現れた。

「みかどさん!!」

 みかどの姿を見た途端、ピュア島のみんなは、驚きと、そして喜びが入り交じった表情を見せる。

「よ・・・、よお」
 みんなに名前を呼ばれると、みかどは複雑そうな顔で、小さくあいさつをした。
 せっかく2日ぶりの再会をしたのに、自分はこんな姿だから。

 しかし、すっかり興奮しているみんなに、みかどのそんな様子は伝わらず。
 さらには、彼の頭上に浮かぶ天使の輪も、彼の体が少し透けているコトにすら気付かず。
「みかどさ~~~ん!」
 みんなはみかど目がけて突進した。
「だあああ!ちょっと待て!」
 みかどは手をぶんぶんふって彼らを拒んだが(先頭くれないだし)、

 すかっ。

 ずしゃあッ!

 皆様見事みかどさんをすりぬけ、盛大に砂地にスライディングした。

「何故っ!?」
「わりーな、俺幽霊なんだ」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「でーーーーーッツ!?」
 みかどは軽く言ってのけたが、ピュア島のみんなはビックリ。

「何で何でー!?」
「みかどさん死んじゃったのー!?」
「生まれて初めての友達だったのに~!」
「うわーん!ばかー!」
 動物たちは(中にくれないがまじってますが)言いたい放題わめいて、泣き叫んだ。

「し、死んだって・・・?」
「そんな・・・」
 それを遠巻きに見ていたきのえとあおいが、信じられないといった表情で呟く。
「生きてるみたいに、動いてしゃべってるケドなぁ」
 その横で、ひかりはあっけらかんと続ける。

「死んだというよりはぁ」
「どわっ!」
 すると、ぽけ~っとしている三人の間に、ひのとが割って入ってきた。
 その手の中には、ひのとのいいおもちゃにされているぽち。

「体という実体がないだけで、生きてるようなものだと、僕は思うケドね」
 『誰だおまえ』と言わんばかりの視線を浴びようが、お構いなしにひのとは話を続ける。

「成仏せず、この世界にとどまっているなんて、随分中途半端な状態ですがね」
「うわっ!」
 今度はひのとの背後から、橘が現れ、ひのとの手からぽちを奪い取る。
 突然の登場に、番人三人はまたもビックリ。

「あ、何すんのー」
「こんな得体の知れない動物に、触っちゃいけません!」
「きぃ~・・・」
 ぽちはいい迷惑である。

「あいつら、他人事だと思って・・・」
 みかどは奴らの会話を聞いて、怒りの四つ角を浮かべた。
 群がる動物たちをなだめるのに忙しく、殴りかかりにいけないのが非常~にもどかしい。

「ほらほら、泣かない泣かない」
 すると、動物たちをなだめる、新たな声。
 ヴァーストはやさしい笑顔を浮かべて、動物たちと目線を合わせるためにかがんだ。
「みかどの体はないけれど、まだここに霊という形でいるんだから、何とかなるはずなんだ。私たちはその解決方法を見つけるために、この島にやって来たんだよ」
 優しく、穏やかに話すヴァーストに声を聞いて、動物たちは泣くのをやめる。

「みかどさん、生き返るの?」
「そもそも、死んでないと思うよ」
「またみかどさんと遊べる?」
「きっとね」
「またみかどさんの料理食べられる?」
「うん」
「またみかどさんが家事してる姿見られる?」
「あぁ、大丈夫だよ」
「おいこら」
「よかったあ~~~~!」
「待てー!最後の待てー!」
 みかど本人を差し置いて、盛り上がってしまうヴァーストと動物さんたち。

「みかど、よかったなぁ。みんな喜んでくれているぞ」
「いや、まだ解決方法は見つかってないだろ・・・」
 すっかり初対面の動物さんたちと和みながら、すかすがしい笑顔を浮かべるヴァースト。
 頼むよ、親父・・・。
 みかどさんは思った。

 すっかり動物さんたちと打ち解けているヴァーストたちから外れ、みかどはふらりと、近くの岩にもたれかかろうとした。
 その瞬間、

「・・・」

 ふと、ピュアくんと目が合う。
 みかどは少し、気まずそうにしたが、すぐに思い立ったように、ピュアくんの近くへと、歩み寄った。

「・・・・・よぉ」
 そして気まずそうにあいさつする。
「よぉ」
 ピュアくんはいつもと変わらない様子で、あいさつを返した。

「・・・悪ぃな。別れたすぐ後に、こんなことになっちまって・・・」
「構わん」
「・・・・・・は?」
 みかどの言葉を最後まで聞かず、ピュアくんはズバッと言い返した。
 みかど、拍子抜けである。

「今はそれどころじゃない。ささらの方が大変なんだ」
 そう言って、ピュアくんはささらの近くに寄り、彼女の顔を覗き込んだ。
「何言ってるの、ピュアくん・・・。あたしより、みかどさんの方が・・・」
「ささらの方が、つらそうだ」

 ピュアくんに言われて、初めて気が付いた。
 いつも元気なささらが、めずらしくダウンしている。
 力ない表情で、岩に体をあずけて。

「ささら!おまえ、どーしたんだ?」
 みかどは尋ねる。
「ほ、本当にたいしたコトじゃないよ・・・。二日酔いみたいだから・・・」
 ささらは頼りなく微笑んだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二日酔い?

「はぁ!?酒飲んだのか、おまえ!?」
「とおるくんたちがカクテルとジュース間違えてすすめてな」
「ジュースみたいなお酒もあるんだねぇ~・・・」
 そう言って、ささらは力なく笑った。

「おバカ!まったく、おまえは~・・・」
 何事かと思えば、こんなどうってことはない理由で。
 みかどは頭を抱える。
「だいたい、そんな姿勢じゃ背中痛めるぞ」
 そしてささらの体勢をなおしてやろうと、手を伸ばすが、

 フッ

 忘れていた。
 みかどは今、体がないのだ。
 手はささらの体に触れず、通り抜けた。

「・・・いけね」
 みかどは小さく呟く。
 少しだけ、微妙な沈黙がつづいた。

「あたしは少し休めば治るから・・・、気にしないで」
 か細い声で、ささらがその沈黙を破る。
「今はそれよりも、みかどさんの体を戻す方が先だよ・・・」
 そう言って、申しわけなさそうに微笑むささら。

 ささらのそんな表情を見るのが気まずくて、ふと目をそらすと、今度はピュアくんが視界に入った。
 ピュアくんはピュアくんで、みかどと目が合うと、複雑そうに眉をひそめ、ふいと目をそらしてしまう。

「・・・・・・・・・・」
 二人のそんな様子を見て。
 この二人にそんな思いをさせた自分が、ひどく情けなく感じた。
 そして大きく、ため息をつく。

「わかった」
 みかどはゆっくりと、立ち上がった。
「今のままじゃ、何もできねーもんな」
 そしてピュアくんとささらを見て、笑った。

 みかどの笑顔を見て、ささらも安心したように微笑む。
 そしてピュアくんも、みかどの目を見て、小さく笑った。

「ガマ仙人」
 みかどは振り返り、遠巻きに自分たちの様子を見ていたガマ仙人の名を呼んだ。
「あんたなら、何かわからないか?体を手に入れる方法」

 名前を呼ばれたガマ仙人は、小さく笑う。
 そして大きな葉に飛び乗って、スイ~っとこちらへやって来た。
「あるにはあるが・・・」
 ガマ仙人は少し考えて、それから思い立ったように、きのえを見た。
「きのえー!ちと協力してくれんか?」

 きのえはガマ仙人に呼ばれ、面倒くさそうにのこのここちらへやって来た。
「あーん?何だよ、協力って・・・」
 しかし、きのえはこのトキ、うっかりスキを見せてしまったコトを、大きく後悔するコトになる。

 ぶちゅっ。

 ガマ仙人の唇が、軽くではあったが、バッチリきのえの唇と重なった。

「・・・・・・・・・・・・・・!!!」
 バッチリそれを見ちゃったささらとみかどは、顔をひきつらせる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
 あまりに突然の出来事に、きのえは一瞬何が起きたのかわからなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な・・・・・」
 しかし、自分が何をされたかをはっきり自覚したトキ、

「何さらすんじゃこのガマーーーーーーーッツ!!!」

 逆上して、ガマ仙人に襲いかかろうとした。
 色んなトコロに散らばって、好き勝手やっていたみんなも、その声に反応して、こちらを振り返った。

 けれども騒ぎの張本人(張本ガエル?)、ガマ仙人に、変化が起こる。
 突然眩しい光につつまれ、そしてなにやら妖しげなスモークがガマ仙人の体をつつんだ。

「な・・・、なななな・・・・???」
 ガマ仙人に突然起こった変異に、みんながみんな驚き、注目する。

 そして煙が晴れてくると、聞いたコトのない声が響き、明らかにカエルではないシルエットが浮かび上がった。
「悪ィな、こうしねーと元に戻れない体なんだ」
 
 現れたのはカエルのガマ仙人ではなく、背の高い、輝く金髪を高い位置でまとめあげた、青い瞳の美青年。
 バサッとマントを翻す姿は、まるで王子様のよう。

「誰ーーーーーーーーーーーッツ!!?」
 煙がはれて現れた、王子様のような美青年を見て、ピュア島のみんなはパニックした。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!
タイトルとURLをコピーしました