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「そういうわけで、吐いてもらうわよ。あおい」
かのこが、カツ、と踏み寄った。
「何を!?っていうか場面転換していきなりこれはないんじゃないかな!」
あおいは体育倉庫の中で、ぐるぐる巻きにされて吊られていた。
「だって、あおい先輩ったら私達が付き合ってって言ってるのに、逃げようとするんですもの」
「いやだって僕これから陸上部に行くトコだったから」
至極まっとうな理由であるが、暴走したこの二人には通じなかった。
「お願い、あおい先輩。何も言わずに全面協力すると言って」
「言えないよ!せめて何が聞きたいのかくらいは教えてくれないと答えようがないよ!」
これまた至極正論である。
この二人に無条件で服従などしたら、テロか暗殺くらいには平気で巻き込まれそうだ、と言うのが今のあおいのイメージであった。
しかしみおはそのようなドス黒いイメージからはほど遠い、可憐な少女の顔で頬を染めた。
「でも・・・恥ずかしいわ・・・」
「は、恥ずかしいって・・・;」
「いいから、あんたは黙って協力してくれればいいのよ。それとも、こうされた方がいい?」
かのこが合図をすると、跳び箱の中やマットの下から黒服の男がぞろぞろ出てきて(ご苦労なことだ)、
あおいをくすぐりはじめた。
「えっ、ちょっとまっ…!う、うわくすぐった…ひゃーやめてやめて!」
「こちょこちょこちょこちょ…」
よってたかって、あおいの弱い部分をくすぐり続ける黒服達。
体もくすぐったいが、彼らがいちいち「こちょこちょ」と言い続けるのが余計おかしくて笑いが止まらなかった。
(まともな状態なら、間違いなく不気味だと思っていたはずなのだが)
「彼らは全員、くすぐりのプロよ。おとなしく私達の言うことをきかないと、笑い死ぬわよ?あおい」
ものすごくいやな感じのセリフをさらりと言うかのこ。まるで悪の女幹部みたいだ。ていうかそのもの。
「あおいさん、うなずけば、楽になりますよ」
みおは逆に優しい言葉で落とす役なのだろう、あおいの横で心底いたわるような様子で呼びかける。
「ひゃひゃひゃ…そう言われても…はははっ…本当理由教えてくれないと無理だって…ひーひー」
「…………」
かのことみおは、同時に目を合わせて、うなずきあった。
そしてかのこが黒服達に「おやめ」と言って、みおがあおいを吊った縄をナイフで一閃した。
ドサリ、と埃っぽい体育倉庫の床に落ちるあおい。
「え…?」
「ふう、やっぱりあおいさんは立派だわ。恥ずかしいけど理由を言いましょう、かのこちゃん」
「そうね。あれほどの脅しにも屈服しないなんて。ささらが選んだだけあるわね」
「…いやあのあれだけの脅しって言われても…」
あおいとしては二人があっさり解放してくれたので意外だった。
素直にそう疑問をぶつけてみると、二人はにっこり微笑んだ。
「だって、あおいさんはささらちゃんの大事な人ですもの」
「本気出してあおいに怪我させたりしたら、可哀想じゃない」
『その前にぼくが可哀想という結論には至らないのだろうか…』と、あおいは心の中で呟いた。
そっちの突っ込みに意識がいってしまったために、残念ながら
”ささらの大事な人”という言葉の意味には気づけなかったようだが。
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