その日は「いつも」ではなかった。
「よってここがこうなり・・・」
レン・アカイ。彼の耳には教師のつまらない授業など入ってなかった。
彼はじっと窓を見つめていた。
授業開始から20分。
レンはいきなり席を立った。
窓の前に立ち、左手を思い切り振り上げる。
そして
窓を割った。
教室がざわつく。
レンの左手からは真紅の血がしたたりおち、校庭で体育を行なっていた生徒たちの上にガラスの破片がふった。
悲鳴が聞こえる中、レンは校庭を見下ろした。
幸いなことに、生徒たちの中に重症を負った生徒はいなかったらしい。
それを見て、レンハ窓際から去ろうとしたそのとき
一瞬
ほんの一瞬だけビリーヴと目が合った。
そのときすっ・・・っと、まわりの喧騒が消えた。生徒の悲鳴、教師の声。
-耐えられない-
レンはそう思った。
まるで自分とビリーヴだけが“ぽん”と異世界に飛んでしまったみたいで
たえられない。
レンは逃げるようにして教室を走り出た。
手は痛くなかった。
教室の事も、校庭のことも気にならなかった。
ただ、ビリーヴが・・・
ビリーヴが・・・・・・
逃げ出したい。
あの目から。
あの瞳から逃げ出してしまいたい。
そしてレンは屋上にたどり着いた。
屋上で受ける風は気持ちいい。
そしてレンはフェンスの上にたった。
上手にバランスをとって、落ちないように、死なないように・・・。
そのときだった。
屋上のドアが開いたのは。
レンはドアの方を見て、口の端を吊り上げた。
「ハロー、ビリーヴ」
「・・・レン・・・」
ドアのところにビリーヴが立っていた。
「何そーんな目してんの?ほら、もっと明るく、smile×2!!」
するとレンはぴょんっとフェンスから降りた。
そしてゆっくりと笑ったまま、ビリーヴに近づいてきた。
「レン・・・」
「なんだ?ビリーヴ」
「血が出てる・・・」
ビリーヴはレンの左手をみていた。
朱色に似た真っ赤な血。
レンの左手はその色に染まっていた。
そのこと倍レンは自分の左手を見下ろした。
「あぁ、これか。気にすんな」
「気にするなって・・・痛いだろう・・・?」
レンはふと、ビリーヴの顔をみた。
「大丈夫、もうマンタイ」
レンは左手をぶんぶんふってみる。
「俺ねー、人間じゃないの」
ビリーヴは目を開いた。
人間じゃない・・・?
(じゃあなんなんだ)
「ほら、この血さぁ、朱色っぽいだと。人間の血とは思えない。だって、人間じゃないんだから仕方ないよなー」
「どういう意味だ、レン・・・」
「俺には母親も父親もいないって意味だよ」
レンは哀しそうに笑う。
「人間以外のものからできたものなんだ」
「人間以外って・・・」
レンはビリーヴを見つめた。
「人間じゃないから痛みを感じない」
まっすぐビリーヴだけを見ていた。
「人間じゃないから哀しくない。人間じゃないから嬉しくない。人間じゃないから怒らない。人間じゃない楽しくない。人間じゃないから泣かない。・・・人間じゃないから!」
レンは最後までビリーヴから目を離さなかった。
「レン・・・」
ビリーヴは優しく声をかけた。
「レン・・・。おまえは人間だよ・・・」
「違う・・・。違うんだ・・・」
笑顔だった。
哀しい笑顔だった。
「人間だよ。だって哀しいだろう。うれしいだろう。怒りたいだろう。楽しいだろう。毎日毎日色々思うだろう」
「違う。人間じゃない・・・。人間じゃないんだ!」
そっと、レンが目をふせる。
そしてビリーヴの腕をひっぱった。
ビリーヴはそのままコンクリートの上にしりもちをついた。
レンはビリーヴの右頬に手を触れさせる。
「キレイな目だよな・・・」
ビリーヴの脚の近くに、レンは腰を下ろす。
レンの手は、だんだんビリーヴの目の方に移動し始めた。
しばしの沈黙。
「ブルーの目っていーよ。憧れるな」
レンは顔をビリーヴの顔に近づけた。
鼻と鼻の距離は約5センチ。
相手の目だけが、二人の視界の全てだ。
「俺、今度ピアスブルーにしよっかな。サファイア。カッコいーべ」
楽しそうに笑った。
「人間・・・。人間なんだ、俺」
幸せそうな顔で言う。
そしてレンはもう一度言った
ビリーヴの瞳を見て。
「お前の目、本当にキレイだよな・・・」
「レン・・・」
ビリーヴはとまどい気にレンの名を呼ぶ。
「空の色とおんなじだよ・・・。空はきっと、ビリーヴのものなんだ」
「レン、何をいって・・・」
今度こそ本当にわからなかった。
レンが何を言いたいのか。
何をしたいのか・・・。
「ビリーヴ・・・。人間って死んだらどこに行くと思う?人間だけじゃない・・・。動物も、植物も」
レンはビリーヴの瞳だけを見ている。
他の何もみていない。
ただ瞳を・・・、そして、その瞳の奥にある真っ青な空を・・・。
「俺はねぇ、空にかえると思うんだ。ビリーヴの空に」
すいこまれていく。ビリーヴの瞳に。
空に。
「だから屋上は好き。空に近づけるから。手をのばせば届きそうだから。・・・ビリーヴはどう思う・・・?」
突然の質問。
「私は・・・」
言葉が出なかった。
自分は今まで、そんなの考えたことがなかったからだ。
するとレンは、そんなビリーヴがわかったのか、急に話を戻した。
「ビリーヴ・・・。空がお前のものなら、俺が死んだら、俺はおまえにかえるのかな・・・」
わからない・・・。
彼が何をビリーヴにいってるのか
わからなかった。
「でも、みんな空に帰るなら・・・、俺、ビリーヴを独り占めできないな・・・」
そしてレンはしばらく考えた。
「あ、そーか。ビリーヴ。俺が死んだら、その目、俺にちょーだい。そーすれば、俺が独り占めできる」
そういって、レンはすっと立ち上がり、扉の方へと歩いていった。
ギィイ・・・。
扉を開けたレンは、扉の中へ消えていった。
光のあたる場所から、レンは暗闇の階段へと移動した。
屋上にビリーヴを残して・・・。
ふと、目線を踊り場の方へやると、ヴァーストがいた。
しばらく見詰め合う2人。
先に動いたのはレンだった。
怪談を折りながら、薄い笑みを浮かべる。
「そーすい。ビリーヴなら、上にいますよ」
そして踊り場に立つ。
「ごきげんよう、tom boy」
そのまま去ろうとしたレンに、ヴァーストは声をかける。
「お転婆だなんて、テレます、そーすい」
しかしレンは振り向きもせず、一段、また一段と怪談を降りていく。
「君は人間じゃないのなら、なんなんだ?」
ヴァーストのその一言にレンは振り向く。
たのそうな顔で振り向く。
「子守唄には気をつけな、wicked person」
そしてレンは怪談を一気に飛び降りて去っていく。
「『悪人』・・・か」
残されたヴァーストは、弟のいる屋上の階段を上り、扉をあける。
「ビリーヴ」
ビリーヴは扉の方を見た。そしてそこにいる人物に驚いた。
「兄さん・・・」
ヴァーストはビリーヴの前まで歩き、そして言った。
「レンはステキな少年だな」
ビリーヴの目が大きく開かれる。
なぜ、ヴァーストがレンのことを知っているのかと・・・。
「ステキな少年だか、やめた方がいい。彼は友達には向かない。あいつに特別な感情を持つな。もう、あいつとは会わない方がいい」
そこでヴァーストは言葉をきる。
ビリーヴは兄が何を言っているのかわからない。
・・・・・。
そこでヴァーストは最後の言葉を告げる。
「レンは人間ではない。・・・あの男は我々の敵となる」
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