ブルー編 目覚め【1】



―朝だ。

―・・・朝?

(やだ、寝坊!?)

ささらは慌てて身を起こす。
そして、仰天した。

「・・・ここ・・・、どこ・・・?」

バロック団内の廊下で、目を醒ましたからだ。

「な、なんであたし、こんなところで寝ちゃったんだろ・・・」
ささらは立ち上がり、ぐるりとあたりを見回す。
「そんなハズないよ。ちゃんと昨日は家で、あたしの部屋で寝たもん」
昨日のコトを思い出しながら、徐々に目がさめてくる。
昨日のことを冷静に振り返る。

「だからパジャマ着てるのよね・・・」
そして冷静に自分のカッコを見る。

パジャマ姿?

「わぁああ!?ど、どうしよう!だ、誰か来たらやだー!」
ささらちゃん、パニック。
「とにかく、早く帰らなきゃ〜・・・」
そんでもって、そそくさと廊下を歩き始めた。

「・・・?」

ふと、窓の外に、違和感を覚える。

何て赤くて暗い空。

「やだ・・・、何・・・?」

今までこんな空は見たことがない。
少なくとも、日本では絶対、こんな空は見られない。

イヤな予感がした。

窓に手をついて、外の景色をまじまじと見つめる。
ささらはやっと、事態の深刻さに気付いた。

「どこ・・・ここ・・・?」

窓の外に広がるのは、荒廃しきった土地。
ビルも緑も、何もない。
空が赤いのは、暗い空に浮かぶ大きな大きな赤い月があるから。
あんなに大きな月は、見たことがない。

「ここ・・・、地球・・・?」

ささらは急に怖くなり、走り出した。

(みかどさんたちは・・・!)

長い長い廊下を走って、総帥室を探す。
探しているうちに、ここがバロック団内の構造と違うコトに気付いた。
よく似てるが、ここはバロック団ではない。

みかどたちの元へたどり着けないコトがわかり、不安と焦りは募るばかり。
せめて、この建物の中に、人が見つかれば、何かを聞き出せたかもしれない。
なのに

(どうして誰もいないの・・・!?)

広い広いこの建物の中には、人一人見つからない。

いけどもいけども、終わることのない、長い廊下。
いけどもいけども、誰一人見つからないこの建物。

(誰か・・・!)

ささらがそう強く思ったとき。


『何か』が動いた。

「・・・?」

空気が変わったのを感じて、ささらは立ち止まる。


振り返った方向へ、足を向ける。
そちらへ向かえば、何かがある気がした。

戻った通路にはたくさんの扉が壁際に並んでいた。
不思議と、ささらにはどこに入ればいいのかがわかった。
その扉の前に立ち止まって、手を触れる。

「あかない・・・」

どうやって先に行こうと悩んでいると、

プシュー・・・

扉はささらを迎え入れるように、自動的に開いた。

「・・・!」

ささらはびっくりして目を見開く。

とりあえず、中に続く長い階段を降りてみることにした。

(あぁ、きっとこれは、赤の力だ・・・)

階段をおりながら、ささらは察する。

(赤い秘石が、何かを示してるから、あたしにはわかるんだ・・・)

さすがに第3部ともなると、冷静に状況分析できちゃうささらであった。

(この先に何があるかまではわからないケド、今、何がどうなってるのかはわかるハズ・・・)

階段の終わりが近づいてきた。
ともに近づいてくるのは機械音。

地下に何かを起動させるシステムでもあるのだろうか。

たどり着いた場所は、機械まみれの無機質な部屋。
誰かの研究室のようだが、長年使われていないのは、デスクの上に積もってる埃を見れば明らか。
(レンさんとプロフェッサーの研究室に似てる・・・)

部屋の中をぐるりと見回して、ささらは足を止めた。

「・・・・・!?」

目の前の『モノ』を見て、固まる。

たくさんの機械仕掛けのコードと パイプにがんじがらめにされ、静かに眠る一人の人間。

人間がそんなふうに捕われていることにも驚いたが、それとは別に、驚くコトが。

なんて、みかどにそっくりなのだろう。



そっくりなんてものじゃない。
みかどとまったく同じ顔。
違いは、髪がみかどよりも長いコトくらいだ。

レンを初めて見たときの驚きに似てる。


ささらは彼に歩み寄る。
そして彼を束縛するコードやパイプに触れた。
「どうして、こんな・・・」
コードは絡み合い、見た目以上にかたく固定されていて、簡単に取れそうもない。

「誰かに捕まったのかな・・・」

ささらはふわりと身を宙に浮かせ、彼の体に巻き着いたコードをほどこうとした。

ブチッ!

腕に力をこめた瞬間、思わず、コードの一本を切ってしまう。

「わわっ・・・!」

自分の馬鹿力に焦っていると・・・

バッ!

突然、部屋の照明が赤く変わる。

ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!

そしてたあた突如鳴り響くサイレン。

「え?!え!?」



ささらはオロオロしながらあたりを見回す。
すると、入口の方からバタバタとせわしない足音が近づく。
それも一人や二人のじゃない。
たくさんの足音。

(まさか・・・!)

「いたぞ!」
「侵入者だ!」
「やっぱりー!?」

お約束もお約束。
20、30はいるであろう警備員が、ささらの前にズラリと立ちはだかった。
(こっちが探しても、全然出てきてくれなかったくせに・・・!)

ささらは思った。


「なんだ、女の子だぞ!」
「なんでパジャマなんだ!?」
「忘れてたー!」

それで…


「あのあのあのっ、違うんです!」
ささらは警備員に向かって、説得を試みてみた。「目が覚めたら何故かこの建物の中にいて、何気なくむかった先がこの部屋で、その、入っちゃいけない場所だなんて知らなかったんです!」

説得にもならない・・・。

その場にいる全員が思った。

「ハイハイ、落ち着いて」
すると、警備員の中からリーダーらしき男が出て来て、ささらに優しく話し掛けた。
「きみはどこから来たの?」
「日本の東京から・・・」
「どうやって?」
「気付いたらここに・・・。どうやってかは覚えてません・・・」
「何故パジャマなんだい?」
「昨日の夜、家で寝て、今日起きたら、この建物の廊下で目が覚めたから・・・」
「何故この部屋に来たの?」
「こっちに来たら、何かある気がして・・・」
「厳重なセキュリティ管理の元、この部屋には入れないようになっている。どうやって入ったんだい?」
「え?えと、勝手に扉、あきましたケド・・・?」
「何故アイツを縛ってるコードが切れてるのかな?」
「その・・・、感極まっちゃって、つい・・・」
沈黙。

(あたし、めちゃくちゃ不審者・・・!)
自分の回答のハチャメチャさに、ささらはさらに焦りを覚えた。

ささらに語りかけていた警備員は、ささらに優しく微笑みかけた。
ささらもワケがわからないながらも、つられて、へらっと笑う。

「確保!」
「きゃー!やっぱりー!」

ささらはあっさり、捕まってしまったのである。
「お願いです!話を聞いて下さい〜!」
「これ以上聞くことはない!」
「わたしは被害者なんです〜!」
「黙らっしゃい!」

わめいてみるものの、ささらは容赦なくズルズルと連行される。

(まだ、あの人と・・・!)

ささらは徐々に遠退く、みかどそっくりの男を見た。
ささらは思わず、彼に向かって叫ぶ。

「助けて!」

ウィーーーン・・・・

機械の動いていた音が止む。
その異変に気付き、警備員たちも足を止める。
そして、背後から来る異様な気配に、後ろを振り返った。

「!?」

彼が動いた。
肩のあたりがわずかに動き、うなだれていた首をゆっくり起こす。
顔をあげ、一番に見つめたのはささら。

「・・・・・!」

目があい、ささらは思わず息を飲む。
まるで自分の声に反応したかのように、彼が目覚めたから。

もしかして、本当に助けてくれるのだろうか。
淡い期待を抱いて、彼を見た。

彼はニヤリと笑う。
とてつもなく凶悪な顔で。
お世辞にも、正義のヒーローとは言えない。

「・・・・・?」

ささらはあれ?と思った。

そして彼は腕に力を入れると、自力で抜け出そうとする。
ざわめく警備員たち。


なんだかとてもヤバイ予感がした。


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【2】へ

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2006.12.19