「真昼の月」の春来さーこさんが書いて下さった共演小説!
「あいったー……」
渇いた喉に音がひっかっかる。
盛大に打ちつけた腰をさすりながら、少女は上半身を起こした。
やわらかな髪がふわりとはねる。
「ふわ。何ここ」
ぽかんと情けなく口が開く。
今までに見たことのないような場所だった。大きな瞳が見開かれる。
写真や絵でなら見たことがあるかもしれない。だが少女には断言できた。ここは、これまで見てきた写真の、絵の、そのすべてに共通項を見出すことはできても、決して重なることはない場所だと。
痛む腰で、立ち上がる。
立ち上がり、周囲を見渡してみて――ずいぶんと天井が高いことに気づく。
義父の屋敷の天井も高くつくられていたが、その比ではない。義父の屋敷のそれが空間にゆとりをもたせるためのものだったのに対して、ここのそれは――何か、必然的な理由があるような気がした。それほどまでに、少女の頭上は高く高く開けていた。あまりに開けていて――眩暈がした。
何メートルあるかな。十メートルは軽いよね。目を細める。
呼ばれた。
ような気がした。
名前を呼ばれたわけでも、声が聞こえたわけでもない。
だが迷うことなく、彼女を呼ぶもののほうへと首をめぐらせる。
幾重にも連なる柱のその先。少女の足もとから伸びる、深紅の絨毯のその先。
少女の進行方向へ連なるその柱もまた、高さも幅も少女の常識をこえていたが――
それ、は、はるかに彼女の理解を超えていた。
「ああ……」
我知らず、呼吸に音がにじんだ。
巨大な玉座に巨大な彫像が座していた。
悲しみだろうか。苦悩だろうか。あるいは、その両方だろうか。
銀の髪のかかる、彫像の閉ざされたその瞳に、瞳の色は見えないはずなのに……少女の胸はひどく痛んだ。苦しいのは、少女ではないのに。それなのにナゼあたしはこんなにも泣きたいんだろう。
彫像は重厚な鎧を身にまとっていた。少女にはそれが余計に悲しくて、まともに見ていられなかった。違う。見ていたくなかった。それなのに目がひきつけられる。鎧は鎖に拘束されていた。彼は、玉座におさめられていた。
ようやく、少女はこの空間の広さを、高さを理解した。
ここが、あの彫像のための部屋だからだ。
まるでその瞬間を待っていたかのように、少女の視界にもう一つ。
彫像のかたわらに、女が一人佇んでいた。
大きくスリットの入った白いドレス(チャイナドレスだ、と少女は思った)に、自分と同じ黒い髪と黒い瞳があざやかに映える。
二十歳も半ばを過ぎたあたりだろうか。少女でも娘でもなく彼女は女性だった。彫像があまりに巨大で、ひどく頼りない。
彼女もまた、茫然と少女を見ていた。
祈る。
祈る。祈り続ける。
こんな時ほど、自分の無力さを呪う瞬間はない。
自分は、自分にできることを。いつもそう思ってきた。
今自分にできるのは――祈ることだけだ。ほかに何もできない。それを嘆くことはもうやめようと決めたはずなのに。
祈りを聞き届ける神がいるなら、姿を見せてほしい。そしてわたしの願いを叶えてください。
もう誰も悲しまないで。もう誰も傷つかないで。もう誰もここからいなくならないで。
嘆きを呼吸ににじませて顔を上げる。祈りを聞き届ける神はいない。願いを叶える力はない。――もしそんなものが存在するのなら、こんなことにはなっていないはずだもの。
王の抜殻。
女の黒瞳に映るのは、かつて彼女の、彼女たちの王であったもの。その抜殻。
いや――完全なヌケガラ、ではない。
まだ、彼の魂はここ、にある。
気づいたのは、ここに一人になってからだ。
「竜王様……」
あなたは何をお望みですか? ――それすらもわからない。
タツのような強い霊力があれば、彼の意思を理解することもできるのだろう。彼女にできるのは、彼の悲しみを感じ取って一緒に悲嘆に暮れる程度だ。中途半端な力。
タツに聞いてみても首を横に振るだけで、何も教えてはくれない。
深く息をつく。振り返る。
「――?」
確かにそれまでそこには何もなかった。
これからそこに何かが質量をもって現れようとしている。
中途半端な力しかもたない彼女にも理解できるほどの強大な力。
歪む。来る。世界の法則を突き破ろうとしている。
時間を空間を世界を捻じ曲げる力。
「なに……?」
吹きはじめた風に、視界に落ちる髪をかきあげた。この風はどこからきたのだろう。あたたかな潮の匂いがした。
風が強く身体を打つ。
力、が弾けた。
轟音が耳をつんざく。反射的に耳をふさぎ、目をきつく閉じる。風が強すぎる。目が開けられない。足もとをすくわれそうになる。
それでも、と混乱の隙間に思う。あたたかいと感じるのは、ナゼですか。
「あいったー……」
夢でも見ていたかのように、あまりにも頼りない単音が上下する。違う。自分の声じゃない。音が、聞こえる。風は、もうどこかへいってしまった。
ゆっくりと、おそるおそる開いた両目のその先。
自分と同じ黒い髪の少女が、腰をさすりながら身を起こす。
「ふわ。何ここ」
目を瞬きながら、少女はあたりを見回す。
この国では見かけない衣服を身につけている。(受ける感じは、人間界のものに近いんだけど、と彼女は思った)
人間の年齢でいえば、十代半ばといったところか。まだ少女の域を抜け切らないあどけない、無邪気な色が、やはり自分と同じ色をした漆黒の瞳の奥でゆれていた。
少女の視線が、周囲に走る。天井へ。柱へ。玉座へ。そして、彼女へ。
視線が一点で交わる。
彼女は彼女を見ていた。
彼女も彼女を見ていた。
唇が開く。同時に。
「あなたは」
「おねーさんは」
『……だれ?』
緊張をはらんで声が重なる。音が響く。高い高い天井に淡くとける。
黒と黒の無限回廊の中にただ二人。


「もうすぐ、竜人界だな」
内心の苛立ちを不意に切ったのは、そばを飛んでいたシンタローの一言だった。
周囲の景色がよく見知ったものに変わってきている。植物の相も、少しずつ。
「……ああ」
機嫌の悪い彼に誰も話しかけてこなくなってから、相当な時間がたっていた。それがまた彼の逆鱗(まさに逆鱗)にふれていたことは、本人すら気づいていない。
いつもなら、となりに彼の機嫌になどかまわないおしゃべりがいて――適当にあしらっているうちに、怒っていたことも何に怒っていたかも、忘れてしまうのだが。
リュウは大きくため息をつきながら、独り言のつもりでぼんやりと呟いた。
「やっぱ、帰りたくはねぇよな。あんまり」
守るべき王が在った。そして自分は王を守れなかった。
世界で一番、強くなると決めたのに。
世界で一番強くなったと思っていた。それがただの思い上がりだと。傲慢だと。思い知らされたあの日。つかんでもつかんでもすり抜ける白砂。強さとはそういうものだろうか。
「誰もおまえを責められんさ」
彼の呟きに、シンタローが律儀に返してくる。
「責める義務があるやつもいるんだよ」
言葉を投げやって、月下の氷の色をした瞳の弟を思い出す。苛立ちが胸をせかした。
リュウを呼び戻したのは彼だが、それは彼の力が必要だという以前に、遅いだの何だの文句の一つもつける気でいるのだろう。あれは、そういう性格だ。生真面目のバカ真面目。
「パーパ、パーパ」
ふよふよと空を飛んでついてきていたヒーローが、ふっと遠くの空を指さした。
「ん? どうした、ヒーロー?」
「あれ、なんだぁ?」
「またクジラとかサメとかいうんじゃねぇだろうな?」
意識して、構える。それまで眠っていたサクラもけだるそうに起き上がる。
大気の流れが、変わった。
変わった――そう表現するよりも。
この世界の扉が、たたかれている。
開かれるのは運命。
「あっ……えーとっ」
先に次をついだのは、少女のほうだった。
「ずいぶんとご立派なオブジェですね☆」
沈黙が深く落ちた。
女は手を胸の前で組み合わせたまま、少女から視線をはずせないでいる。
(しまったー!? なんかこのおねーさん、ぽかーんってしてるッ!)
胸中であせる。手がわたわたと微妙な動きをする。
このあとどう言葉をたせばいいのだろう。せめて、そうでしょう、我が家の自慢なんですのよ、とでも言ってくれれば会話が続いたのに。いや、先に彫像に言及した自分が悪いのだろうか。
「……ふふっ」
女が、笑った。
「おもしろいこと言うのね」
口もとに手を添えて、くすくすと笑う。
オブジェ=玉座に座す彫像。
だと、数瞬かかって理解した、らしい。
「へ?」
今度は少女が、言われた言葉のその意味を取れない。おもしろい、こと?
女はゆっくりと、視線を上げた。その視線の先を追って、行き当たるのはあの彫像。水底の悲しみをたたえた無生物。
「この方は――わたしたちの王よ」
「おう?」
多少、考える。
おう。追う。……王?
「……おーさま……?」
「ええ。わたしたち龍人の王」
ああ、まただ。また、あの悲しみがひしひしと流れ込んでくる。少女はひりつきそうになる喉に、精一杯空気を流し込んだ。いつのまにかきつく拳を結んでいて、てのひらがちくりと痛んだ。
「王様。悲しそう」
「そうね。とてもとても」
「きっと、すごく悲しいことがあったんだよね」
「そうね。――わたしには、理解してさしあげることはもう、できないけれど」
目に見えていることだけが真実ではない。理解しているつもりだった。目に見えていないことも理解できていると思っていた。
それがただの思い込みだと思い知らされて、悲しみよりもなさけなさが突き上げてくる。
そしてこの少女は、ここにきたばかりで彼のこの悲しみを理解してしまった。なんて聡明な――優しい娘なのだろう。
そこまでおもって、
「……あなたはいったい、どこからきたの?」
波が打ち寄せるように思い出す。共有した問い。引いていた疑問。
「あなたは――だれ?」
敵意を抱くでも不審に思うでもない。ただ当然の疑問を静かに問う。
「え」
少女は逡巡した。考える必要のない、簡単に答えを出せるはずの問いに。
あたしはどこからきたのあたしはだれなの。
もどかしさが喉を伝う、
あたしは。あたしは。
「あ……あたし、ささらっていいます!」
叫ぶように確かめた。
そうだ。あたしは、ささら。
初めて、口にする名前のようにすら感じられた。口の中で、何度も何度も繰り返す。
「あたし、あたし、ピュア島に住んでて、それで……!」
そう。ピュア島に住んでる。家族が、友達がいる、すばらしい島。
あたしは、ピュア島のささら。
「ピュア島?」
聞いたことのない地名だった。どこかの離島だろうか。女は少女をじっと見つめる。虚言でも妄想でもない。彼女の目はとても澄んでいるから。
「す、すごくすごく海がきれいで、自然がたくさんで、動物がしゃべって……」
思い出せる。覚えている。知っている。愛している。あの島を。少女――ささらは、思い出せる限りを羅列していく。
少女から、潮風の匂いがするような気がした。ああ、そうか――あの潮風は、彼女が運んできた、彼女のあるべき場所の。女の瞳がやわらかく細まる。
「ささらちゃんは、好きなのね。ピュア島が」
ささら、にとっては、故郷、と呼べる場所なのだろう。そして彼女はしあわせだったのだろう。
今、ただこうしているだけでも、それが伝わってくる。
思いつくだけすべてを吐き出したあとで、少女は肩で荒く呼吸した。呼吸を整えて、小さく微笑む。
「はい。大好きです」
まっすぐに、目の前に立つ女を見つめかえす。
その目のまっすぐさと答えに満足し、女はそっと手を出した。
「はじめまして。わたしは、リッツァ。竜人界英雄補佐のお役目をいただいています」
「リッツァ、さん?」
女の手をとる。想像していたよりも細くて、あたたかかった。
「呼びにくいから、みんなはリザって呼ぶけど」
自分の手をとった少女の手の小ささに、やわらかさに、驚く。
「じゃあ、リザさん。……ここは、りゅーじんかいっていうの?」
「……どこから説明してあげればいいのかしら……」
女――リッツァは頬に手をあて、小さく息をつく。あきれているのではなく、「どうしたらこの子にわかってもらえるかしら」という、まるで保母さんのような困り顔だった。
「この世界は七つにわかれているんだけど――それはわかる?」
ふるふるとささらは首を横に振る。そんなこと、初めて聞いた。
リッツァは覚悟を決め、どこからかペンと地図を取り出した。(青いタヌキな二十二世紀の猫型ロボット?)
「人間界、鳥人界、獣人界、花人界、蟲人界、海人界、それからここ、竜人界。
世界は七つにわかれていて、それぞれの場所にそれぞれの種族が住んでいるの」
「へえー……」
それはささらが常識としてもっている世界地図とは、かけ離れたものだった。
中央に島を抱く、陸続きであったりわずかに海が走る巨大な大陸。そのほかは海であるようだった。リッツァが「ここ」といってさした竜人界は、中央の島だった。
ささらが知っている「世界」ではない。
だが。
(……あたし、これ、どっかで見たことある……?)
薄くも鮮烈な既視感。記憶を手繰る。どこ。どこで、どこであたしはこれを見た?
「……ささらちゃん?」
「へっ?」
「だいじょうぶ? 今、すごくぼーっとしてたみたいだけど。調子悪い?」
「あ、だいじょぶです」
なんでもない、と手を振る。リッツァはそれでも心配そうだったが、ささらに促されて地図をきれいに巻いて先を続けた。
「ええと……それでね。各世界には王と王を守護する英雄が一人ずついるの」
「それが、あのオブジェ?」
オブジェ、という言葉に、リッツァが笑うのが、ささらにはわからなかった。あの彫像には偶像崇拝以上の意味があるのだろうか。
彼の悲しみを理解できるのに、彼の本質にまでは達していない小さなお客様が、リッツァにはとてもかわいらしく思えた。こんな妹なら、娘なら、たくさんほしい。
「そう。昔は、お話することもできたのだけど……」
「ええッ!? オブジェなのに!?」
確かに、それがなんであるかをまったく理解していないものから見れば、そうなのだろう。次の一言を一音分躊躇した。
「お亡くなりになってしまったの」
「え」
「もう、何か月も前のことよ」
「え、でも、だって、王様を守る人がいるんでしょう!? そのひとは? 今どこにいるの?」
思わず、彼女に詰め寄った。
深い夜をうつした瞳が、翳っている。その中に映る、小さな少女。
「あの人でも、守れなかったの。世界で一番強い、あの人でも」
おだやかだった。やわらかだった。悲しそうだった。苦しそうだった。
「……その人、も?」
「いいえ。今は、人間界に行っているはずだけど……帰ってこないのよねえ」
「か、帰ってこない?」
「事の次第を、人王様――人間界の王であられる御方ね。人王様のところに報告に出て、それっきり。
早くお帰りになってもらわないと、いつまでたってもわたしに英雄代理の権限がくっついてるから、いろいろ困るのよねえ。ここから下手に離れられないから、のんびりお茶も飲めないし」
(り……リザさん、まじめなのかボケなのかまじめすぎて容赦なくボケなのかッ……)
人の心配をしているが、自分のボケボケ加減は完全に棚の上だ。
玉座の横手の窓から外を見やっていたリッツァは、唐突に手を打ちあわせた。
「そうだわ。ちょうどいいから、つきあってちょうだい」
「え?」
言い終える前にもう、ティーセットを広げようとしている。地図にペンにティーセット……次はいったい、何を出すのか何が出てくるのか。
「うわあ、このティーカップかわいい」
「でしょう? 花人界のおともだちから、お誕生日にいただいたの」
「あ……そういえば、失礼かとは思うんですけど、リザさんって今、いくつ」
「リッツァ」
優雅にティーカップを並べるその指をとめたのは、結ぼうとしていた質問をさえぎったのは、若い男の声だった。
「あら、シロちゃん」
ティーカップに見入っていたささらも、つられて顔を上げる。
「シロちゃんはやめてくださいって言ってるでしょう、姉上!」
「姉上にとってはいくつになってもシロちゃんはシロちゃんよ♪」
顔を真っ赤にして声を荒げる彼は、とても繊細そうな面立ちをしていた。
月下の氷の色をした涼しげな瞳がため息に曇り、がっくりと肩を落とす。
「ささらちゃん、この子はシロちゃん。わたしの従兄弟で、今は臨時にわたしの補佐官をしてくれてるのよ」
「……シロちゃんではなくて白龍ですが……初めまして」
「それで、こっちはお客様のささらちゃん」
「あ、はじめまして。ささらです」
「……客? リッツァ様。こんな時に何を能天気な――そもそも、彼女は正規の手続きを」
「かたいことは言わないの。わたし、ずっと一人でここにいて時間をもてあましてたんだから。そんなことより、お客様を無視しちゃダメじゃないの」
「……はいはいはいはい。ささらさん、こんな時ですがどうぞごゆっくり……」
「どうしたの、シロちゃん。なんだかとっても切なそうよ?」
「姉上のせいでしょうがッツ!!」
「八つ当たりもダメ」
悪いとは思いながらも、ささらはつい笑ってしまった。
白龍はこれだけのやりとりで疲弊してしまったらしく、ささらに笑われてしまったのもショックなのか、壁に向かって何やらぶつぶつと呟きはじめてしまった。
「リザさん、いいんですか? 白龍さん、ほっといて」
「そうねえ。いつものことといえば、いつものことだけど。
それで、何の御用?」
最後の一呼吸分はささらではなく白龍に向けられたものだった。
呼びかけから落とされたトーンに、彼はゆっくりとこちらを向いた。
「……いえ。兄者と連絡がついたようですので、その報告に。じき戻ってくるでしょう」
「まあ、ほんとう?」
彼女の表情が華やいだ。それはもう、花でも散らしそうなまでに華やいだ。
大切な人なのかな……不意に、意識の片隅で、黒い髪の少年が笑った。ささらは思わず勢いよく首を横にぶんぶんと振る。さいわい、二人は気づいていない。
「そのあとのことで、いくつか相談があります。……よろしいですか?」
「……そうね。ささらちゃん、わたしの部屋で待っててもらってもいいかしら?」
やんわりとお願いをしてくる彼女はそれまでと同じようで――緊張に張り詰めていた。
それは何かきっと大切なことで、自分は聞いてはいけないことなのだろう。ささらは素直にうなずいた。
「それとも誰かに城内の案内を頼んで――」
白龍が何か言いかける、その中途で。
広げられたままの地図が目に入った。
ささらは思わず息をのむ。
どうして忘れていたんだろう。
(……バロック団のマークに似てる……?)
風が、吹いた。一陣。
なだらかにゆれる翠の中に、鉄の――血の、匂いがふれたような、そんな気がした。
「おまえ、どこからきたんだあ?」
リュウはひょいっと、目の前の少年の首根っこをつかんで自分の目の高さまで持ち上げた。
ヒーローや自分の末弟よりも、少し年上、というところだろうか。妙に意志の強そうな黒い瞳が、まっすぐにリュウの隻眼を見据えてくる。
突然現れた少年に一同が注目する中、彼はいたっていつもどおりに、おおらかに問う。
少年は引き結んだ唇をわずかに動かした。その声は、はっきりと響く。
「ピュア島」
「名前は?」
「ピュア」
「はあ?」
少年は真顔で答える、真顔でリュウも眉をひそめる。
そのやりとりがまるで子ども同士のようで、シンタローは思わず吹き出した。
「あん? 何がおかしいんだよ?」
「い、いや、別に。まあ、ほっとくわけにもいかないだろ」
「……んー。そだな。つれてくかぁ」
「わーい、ヒーローの新しい友達ー!」
「ったく、厄介ごとばっか増えるよなあ……うぎゃあああああああああああ!?」
「ぼくのことを厄介ごとなんていうからだぞ」
いらない一言を呟いたバードの頭を、ぽちがひとかじりする。ピュアはまだおとなしく、リュウに襟をつかまれたままでいる。
「わー、ぽち、牙が鋭いぞー」
「ぼくの友達だからな」
「離せ、離さんか愛玩動物ーッ!! ってか、おまえの友達ってこととなんか関係があるんか!?」
「特にない」
「バード、哀れだぞー」
ぎゃあぎゃあわめき散らす青いトリを、うるさいとサクラが一蹴する。タイガーはバードとサクラ、どちらの側にも立てずに困り果てている。キリーは賢く無視を決め込んでいた。
そして一行は、竜人界へ。
新しい物語がはじまる。
*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
花咲乙音様へ、
2004年五月ごろから、書きたいと思っていたお話です。書ききれないままに日本を飛び出してきて、いつも心にひっかかっていた一本です。
そして今回、日本から遊びにきてくれた友達が、もう使わないパソコンをおいていってくれたので、やっと書くことができました。ほんとうはお年賀メールに添付したかったのですが、この通り間に合いませんでしたごめんなさい(平謝り)。
時間としては、五巻で英雄六人とヒーローが、竜王の城に戻ってくる寸前くらいを想定しています。 カンガルー大陸にきてから、ずっとヒーローを読んでいないので、あのあたりの展開や設定が曖昧なのですが……。単にわたしがささらちゃんとうちのボケ倒し龍人の絡みを書きたかっただけなのでわたしは満足です(笑)。
このお話を書くときに、Pure Soulをもう一度最初から読ませていただきました。そこでPure soulのおもしろさ、優しさを再確認しました。
そしてこれを書いているときに、Pure soulのあの優しい雰囲気や楽しい空気が自分にしみこんでいるのがわかって、自分ではシリアスなつもりがどうにかしてほわーっとまとめられないだろうかとがんばってみて(結果はともかく)、そうしてみて「乙音さんってすごい!」も再確認。乙音さんに出会えてよかったですv
パラレルなPure Soul、楽しんでいただけましたら幸いです。ちなみに最後の一文は、『光と影(4)』で乙音さんが「物語がはじまる」という言葉を使ってらして、その言葉がとても好きで、そこからお借りしてしまいました(>_<)
ではでは、これからもどうぞよろしくお願いいたします!
春来さーこより心からの感謝を込めてv
*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*…*
乙音からありがとうのコメントv
わー、わー、なんかもう、本当にもったいないお言葉ばかり頂いてしまって恐縮です…!
でも、そう思って頂けて、そしてこんなにステキな小説まで頂けて、本当にウレシイです。
わたしこそ、感謝しまくりですよ、ありがとうございます!
さーこさんから、ずいぶん前に頂いていた小説を、ずっと×2しまい込んでおりました。
さーこさんの文章って、本当にキレイで透明で澄んでいるイメージだケド、
芯はしっかりしてるとゆーか、まさに、リッツァさんそのものだなぁなんて(^^)v
この小説読んで、場面場面の映像がいっぱい×2思い浮かびました。
どこのシーンの挿絵を描こうかなと悩んで、でも、ひとつには絞れなくて、
マンガという形で、一部だけ、抜粋させて頂きました。
Pureではキレーなお姉さんを描く機会がほとんどないので、楽しかったですv
ラスト、タイトル入ってるハズのコマは、竜王様の足が見えてるはずなんだケド、
すみません、乙音にあのご立派な足は描けませんでした(笑)
そして何より、作品枠を超えた絡みが大好きな乙音としましては、
もー、Pureっ子とさーこさんオリキャラ、HEROキャラとの絡みが本当にうれしくて!!
HEROの世界は本当に魅力的なので、そこにPureっ子が混ざれたコトが楽しかったですv
リュウさんとピュアくんのやり取りには思わず笑ってしまいました(笑)
ヒーローたんとピュアくんも、年が近いんだよネ。仲良くなれるかなー♪
そして、わたしもリッツァさんとささらちゃんの絡み、すっごく嬉しかったですよー!
ささらちゃんは、知らない場所へ行って、「え?え?」ってなってるのが
すっかり定着しちゃってますが、今回も見事に(笑)
でも、リッツァさんみたいに、優しいお姉さんが近くにいてくれてよかったv
一緒にお茶する場面は「いいなぁ~」と、わたしもほんわかしながら読んでました。
リッツァさん、いろいろささらちゃんの面倒見て下さってありがとうございます(笑)
リッツァさんって、やっぱりステキなお姉さんだなぁ・・・と改めて思ってしまいましたv
それから、細かい描写の中に、ささらちゃんの魅力をいっぱい詰め込んでくださったのも、
すっごく×2うれしかったです、ありがとうございます!
はてさて、リッツァさんサイドと英雄さんたち、ささらちゃんとピュアくんが再会したら
これまたどんな事件が待っているんでしょうネ♪
パプワとHEROのリンクのように、Pureにもリンクする部分をほのめかしてくれたのも
とっても嬉しかっただけに、実は続きがすんごい気になる…!!!
さーこさん、このたびステキな小説、楽しい皆のお話を本当にありがとございました~♪
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます